本章の概要
珪素鋼板は、僅かな起磁力で大きな磁束量を得る事が出来る電磁鋼板と呼ばれる磁性材料である。この材料の特性BH 特性(片対数表示で示される)に、数値計算
2 に示した補間法で、補間値を求め、補間法の比較を行った。
最初に、珪素鋼板の BH 特性曲線とこの特性曲線の利用法を示した。次に、補間計算を行い、確度の高い順を調べた、一般に使用される3次のSpline補間法が確度が高い。
しかし、Spline補間法が必ずしも、全領域で確度高く補間している訳ではない事が、計算精度が確保される直交関数( Legendre 多項式)による補間計算結果との比較において判った。
1、珪素鋼板(電磁鋼板、silicon steel)の説明
パソコンの電源(電源トランス)や発電機、モータに使用されている。珪素鋼板に関する日本の技術力は、戦後
からの技術者や研究者の努力と苦心の結果、世界一である。この世界一の技術の材料があればこそ、日本の電機
メーカや自動車メーカは、安心して、発電機やモータ、トランス(変圧器)を製作、使用できる。
この珪素鋼板は鉄で出来ているので、重い。しかし、一般の鉄と比較して、この珪素鋼板は、僅かな起磁力
(Ampere 電流)で、電圧に関係する磁束を多量に得る事が出来るという特長を持っている。この磁束量と起磁
力の関係を、 B 磁束密度( gauss 古い単位系)とH 磁界強度(at/cm 古い単位系)で、下図に示す。
この BH 特性図は、2万ガウス以上の全体的な特性を示しているので、書籍で見かける図 とは異なる。横軸が
対数表示である事に注意して欲しい。
2、BH 特性曲線の補間法について
この図で、1 at/cm までが前述した僅かな電流で、多くの磁束を得る部分に対応する。具体的な発電機や
モータでは、負荷遮断時の電圧上昇の防止等の要因で、2万ガウス以上の領域も使用している。
この図は、横軸の磁界強度から磁束密度を求める図であるが、実際の適用は、電圧に関係する磁束密度 B
から、どの程度の磁界強度 H ( at/cm )が必要になるかを求める事が行われている。上図の横軸と縦軸を入
れ替えた図を下図に示す。
極めて、特異な曲線である。測定点の無い磁束密度から磁界強度を求める補間法自体が重要になる。
3、BH 特性曲線の利用法
この特性図の具体的な使い方を数値と式を利用して示す。下図のように、上図の特性を持つ環状の積層された
珪素鋼板にエナメル線が巻かれているとする。
珪素鋼板の外側の半径を 8 cm、内側を 5 cmとすると、3 cm幅で、点線部の半径が 6.5 cmになる。一枚の
珪素鋼板の厚みを 0.5 mmとして、50 枚重ねているとすると 2.5 cmになる。エナメル線は、それぞれ、2 回
巻かれているとする。
これに、実効値 0.4 Vの交流 60 Hzの電圧を得たいと考えている。流すべき 60 Hzの交流電流(実効値)を求
める事を行う。
1)電圧から磁束量の算出
交流電圧(実効値)を
とすると、交流電圧のピーク値は
[V]となる。磁束量を
[Wb]とする。
また、交流の周波数を
[Hz]とすると、角周波数は、
[rad/s]となる。なお、エナメル線の巻き
数を
とする。
電圧と磁束量との間には、以下の関係式が存在する。
[V] …1式
この関係式より、磁束量は、以下で得る事が出来る。
[Wb] …2式
上記の式で
であり、
4.443 はよく出現する数値である。
また、磁束量 [Wb] は、磁束密度B [Wb/m2]=[T](テスラ)に磁束の通過する珪素鋼板の環の
断面積S[m
2]との積であるので、上記 2 式を磁束密度と電圧の関係式の 3 式に変える。
[T] …3式
珪素鋼板の断面積 S は、幅 0.03 m×厚み0.025m= 0.00075 m
2= 7.5×10-4 m
2 であるので、
=
1.0[T] …4式
従い、この環に磁束密度1.0[T] (cgs 単位系では、10000[gauss])を発生させれば、2回巻いたエナメル線
に、
・
0.4Vが生じる事になる。
現在は、[G] と記載してもcgs 系の磁束密度の単位であると解らないので、[gauss]とした。
1.0[T]と表現すると 1.0 で小さく感じられるが、大きな値であり、旧単位系では、1万ガウスである。最高
性能の高性能磁石を多量に使用し、 さらに、特殊な形状にして4.0[T]がやっと達成できる。
2)磁束密度から起磁力の算出
特性図で、横軸が 10000 [gauss]の時、磁界の強度は、約1.0[at/cm]である。
起磁力 AT は、単位の式より磁界強度 H に磁路長をかければよいと判る。環の中央を通り点線の半径 r
は、6.5 cmであるので、ピーク値の起磁力 AT は 40.8となる。2回巻いているので、エナメル線には、ピ
ーク値 20.4 A、通常使われる電流値(実効値)では、14.4A(=20.4/1.414)となる。
[AT] …5式
この条件(磁束密度 1.0 [T])の時、電圧側を 50ターン(=2x25)巻くと、 25倍の10[V]を得る条件になる。
更に、電流側を20ターン(=2x10)巻くと、1/10の 1.44 Aの電流を流せば良い事になる。
1、珪素鋼板 BH 特性に対する補間法比較(コード1)
数値計算 2で示した補間法( Lagrange、Aitken、Spline、直交関数 Legendre)を
珪素鋼板のBH特性
に適用して、各補間法のの有用性を比較した。
直交関数 Legendre 多項式による不等間隔の離散データの級数展開については、
数値計算 7 数値積分
(離散系)に説明を示す。
Legendre 多項式による補間については、本章の
Legendre 多項式による補間法(次節)にしめす。
また、珪素鋼板のBH特性曲線は、 上記の節に示す
x 軸に磁束密度をとった時、 y 軸の磁界強度は対数軸でなければ表示が難しい特性(
上の節の第二図)で
ある。補間の出来によって、 y=f(x) の y の値が変化しやす事になる。この比較結果を下記に示す。
下表で、Spline補間、Aiken補間、Lagrange求根、Lagrange補間は、
コード 1 で、直交関数は、
コード 2
で、算出した。
2、比較結果
3、結論
当然に Spline補間法が有用である。しかし、どの個所でも精度が高い訳ではないようである。
Spline補間法の精度については、次節をご参照ください。
直交関数 Legendre 多項式による補間は、tuning upの出来によって変わる。
次節 をご参照ください。
なお、Aitkenの補間では、計算精度が高いと収束しないので、 精度を低くすることで、次数が小さくなり、
脈動が減少し、妥当な数値得る事が出来た。Lagrange補間の求根法は予想外にいい結果を示した。
注)Lagrange求根法で、磁束密度18000[gauss]以上は、補間点に近い標本値である。
1、補間計算の説明 (
コード 2)
不等間隔の離散データを Legendre 多項式 P
n(x) で級数展開出来るので、補間に適用できる。この補間の式
は以下となる。
13-L-1式
上式の a
n は、以下である。
13-L-2式
また、区間 [ a , b ] にある x
k を区間 [ -1 , 1 ] の x
j に変換する式は、以下となる。
13-L-3式
さて、区間 [-1,1] で、上式 13-L-2式の a
n は、m を 不等間隔の数値積分の次数とすれば下式となる。
13-L-4式
ただし、c
j は、不等間隔に伴う係数である。(重み係数)
上式 13-L-4 式を具体的に示せば、以下となる。
・一次式の数値積分は、台形則となる。
・二次式の数値積分 m=2 の時、x
j を x
0 , x
1 , x
2 即ち、 -1 , x
1 , 1 とすると
13-L-5式
更に、c
j を示すと、(説明は
数値計算 7 数値積分(離散系)を参照方 )
13-L-6式
上記に、 x
0=-1 , x
2=1 を代入すると、以下になる。
13-L-7式
・三次式の数値積分 m=3 の時、x
j を x
0 , x
1 , x
2 , x
3 即ち、 -1 , x
1 , x
2 , 1 とすると
13-L-8式
となる。係数 c
j の具体的な式は、
数値計算 7 数値積分(離散系) をご参照ください。
このようにして、四次式、五次式 の数値積分で、 a
n を求める事ができる事になる。 a
n の数値が求まれ
ば、13-L-1式により、 任意の x に対して、補間できる事になる。
補足、6次、7次、、、、10次の不等間隔用の積分式を作成したが、本件では使用しないので、削除した。
しかし、Spline、Aitken、Lagrange の補間は、標本点から直接に算出する方法であるのに対して、13-L-1式
は間接的に求めた a
n に拠っているために、高い精度で求めない限り、標本点を必ず通るという保証はない。
2、BH 特性に対する補間計算
BH 特性は、珪素鋼板 BH 特性に示したように、片側対数で示される特性であり、飽和も含んでいる。特性が
各範囲毎に、異なる次数の多項式で構成されている事は想像できる。しかし、補間できない訳ではない。
上記の 1 節の方法で補間を行う場合、以下の計算が必要となる。
(1) 補間区間の適切な切り分け
(2) 各区間の離散データの特性に合う適切な Legendre 多項式 P
n の選択
(3) 各区間の不等間隔のデータに対する適切な積分式の選定( a
n 係数算出用)
(4) 補間精度の設定の見極め
かなりの量の計算を行った。計算は、
コード 2 に示すとおり、
(1) 標本点79個を 16 に区分した。その区分の標本点の数も一定ではない。
(2) Legendre 多項式の次数は、区分毎に異なり、2 と 3 次が主で、6次まで得た。
(3) 数値積分の次数は、4次が主で、次に 2 から 5 次である。
(4) 精度は標本点に対して ±1% 以下とならざるを得なかった。(もっと、高い精度を得たかったが、)
3、計算結果
同じ磁束密度での標本と上記の補間計算の比較を下図にしめす。ただし、補間の曲線は、計算した磁束密度に
対して、+2000[gauss] で表示し、標本と比較が出来るようにした。両者は同じように見える。
標本点に対する
コード 2 での計算精度の分布を下図にしめす。1% 以下である。
上節の BH 特性の補間計算比較の比較結果の表で、Spline補間と 1% 以上の開きのある個所、800、
18000[gauss] での本計算での標本点との精度は、
800[gauss]前後では、
標本点 585[gauss]の 0.19981[at/cm] に対して、計算 0.2009[at/cm] で 0.58% の精度
標本点 864[gauss]の 0.24975[at/cm] に対して、計算 0.2517[at/cm] で 0.80% の精度
800[gauss]での本計算の補間値 0.2437[at/cm] は、真値の 1% 以内であると確信できる。
18000[gauss]前後では、
標本点 17808[gauss]の 79.749[at/cm] に対して、計算 79.805[at/cm] で 0.07% の精度
標本点 18100[gauss]の 99.732[at/cm] に対して、計算 99.627[at/cm] で -0.10% の精度
18000[gauss]での本計算の補間値 89.65[at/cm] は、真値の 1% 以内であると確信できる
Spline補間の3次の滑らかな線では精度高く補間できない個所がある事になる。従い、金科玉条の如く
Spline補間の補間値のみで補間するのではなく、幾つかの補間法でも確認する必要がある。
4、結論
数値積分の次数から区間内の標本点の数を決め、Pn の次数を20次まで総当たりで、算出して、精度が 1%
以下になるようなケースを選定した。この作業は、計算の tuning up と言うべきある。
離散データの特徴にもよるが、間接的に求めた係数から補間を行う方法は、かなりの計算を必要とする。従い、
直交関数によるの補間は、補間法として利便性が低いと考える。しかし、精度は確保できる。
5、使用したc++手法とSTL
vector<double> Legendre_function() (function文として)、b30(int)、inner_product()
Information
- 2012年
- この章の全体履歴
2012年1月
- 2012年
- この章の変更追加履歴
4)コード 1, 2 の記載 2012/3/30
3)直交関数による補間法の記載 2012/3/29
2)BH特性の補間法の比較の記載 2012/3/29
1)珪素鋼板のBH特性の記載 2012/3/29