「いのちの授業2003」

南日本新聞の2003年12月8日付の「ひろば」に「命のバトン」と題した投稿があった。書いたのは、鹿児島県のほぼ中央部にある宮之城町立柊野(くきの)小学校の5年生。


いのちの授業があった。私は今までいのちについて深く考えたことがなかった。
命の誕生の不思議について、教えてもらったとき、私の命は,多くの人から受けついだ命、途中でだれかひとりでもいなかったら、私はいないことに気づかされた。そして、命のすばらしさにおどろき感動した。
また,人は誰でも私と同じように命を受けつぎ、周りの人から大切にされ幸せにくらしている。だから自分の命だけでなく、人の命も大事にしようと思った。

命の授業が終ってから、先生が「わすれられないおくりもの」の読みきかせをしてくれた。
11月6日に亡くなった祖父のことを思い出しながら聞いた。祖父もあなぐまと同じようにいろい

ろなことを教え、思い出を残してくれた。そして,今も私の心のなかに生きている。
祖父から母に、母から私に命が引きつがれ、今、ここにいる。この命を大事にして、また誰かにひきついでいく。途中で命のバトンを落とさないようにして。

柊野小のある地区は、過疎化のすすむ農村地帯だが、近年「ひがんばなの里」として売り出し中である。子どもたちも、大人に交じって、ひがんばなの球根の植付けを手伝い、ひがんばなの咲く頃に、訪れる人を案内する役割をしっかり果たしている。この小さな小学校で、私は11月初旬「いのちの授業」を行なった。鹿児島県教育委員会が設定した地域への学校公開の時期だったので、会場には、小学生に交じって、地域の高齢者の姿もあった。

いのちの授業を始めて7年目の今年、私の授業は、この柊野小を含めて小中高校の児童・生徒対象に学校を会場に行なったのだけで、150校になった。ほかに今年は、夏に愛知ホスピス研究会に招かれておこなった授業や、10月に「子どもと本―おかやま」に招かれて行なったものなどもある。

2003年1月から12月までに訪問した学校は、全部で26校。うち、小学校が18校。鹿児島県以外に、香川県2校、福岡県3校、熊本県1校、兵庫県1校、岡山県1校。全校併せても10数名のミニ校から、数百名の学校まで、出会った子どもたちの数はいったいどのくらいになるだろう。

学校以外の場でも、いろいろな出会いがあった。

7月末には、学校図書館資源共有事業の指定を受けて、学校図書館のネットワーク化をはかり、よりいっそう子どもの読書推進をすすめようとしている三重県四日市市に招かれて講演した。以前から著書や手紙だけで交流のあった石井順治先生にお会いした。先生は、東大の佐藤学先生が、三重大にいらした頃から、「国語教育を学ぶ会」の中心になって、活躍してこられた方。校長になってからも、しばしば絵本を抱えて、教室に出向き授業をされてきた。四日市市には、子どもの本専門店メリーゴーランドがあり、灰谷健次郎さんや工藤直子さんらが頻繁に訪れる。若いころの灰谷さんを教室に迎えて、授業をしてもらった体験をもってらっしゃるそうだ。

10月には、鹿児島県緩和ケアネットワークの大会があり、「支えあう会α」http://www.icntv.ne.jp/user/alpha/index.htmの土橋律子さんと対談した。土橋さんは、第一線の大学病院看護師として働いていた30代初めに3箇所のがんを体験。現在は、患者同志が情報を交換し、支えあえる会をつくり、活動されている。

11月には、小児保健学会が鹿児島で開催され、著書やテレビで一方的に存知あげているだけだった聖路加国際病院の小児科医細谷亮太先生にお会いした。『種まく子供たち』に出てくる加藤佑子ちゃん(http://www.max.hi-ho.ne.jp/forever-19/)の主治医だった石本先生はじめ、全国で厳しい病気と向き合っている子ども達とその家族を支えておられる真摯な医療関係者の存在を知ったのは、大きな収穫だった。

12月には、ホスピス緩和ケアフォーラムで、ノンフィクション作家の柳田邦男さんにお会いした。私が進行性胃がんと診断され、死の恐怖と向き合っていたころ、柳田さんの著作をむさぼるように読んだ。誰でもいちどは訪れる「死」を見つめながら、自分の納得できる「生」をまっとうした人々の姿を描いた著作の数々。いちどお会いしてみたかった方である。

個人的には、1月初めに母を亡くし、7月には初孫が誕生した。母の死で、パートナーの両親を含めて、親と呼べる人を全員亡くしたことになる。

父の死から16年間、一人暮らしをしてきた母。人一倍元気で明るくて、前向きで、気さくで、器用で・・・。病を得て、たったの1週間床についただけで逝ってしまった。みごとな生きざまを自ら示してくれた。

遠方に住む孫の方にはまだ1回しか会っていないが、すくすく育っている様子をメールで知ることができる。

身近な「死」と「生」に直面したこの1年の体験を活かした「いのちの授業」の行脚をこれからもできる限り続けて小中高校の児童・生徒対象に学校を会場に行なったのだけで、いきたいと思う。

長い間、連載してきた「死を学ぶ子どもたちPART2」ですが、とりあえず今回で終了します。今後の授業の日程は、HPでお知らせします。