「死を学ぶ子どもたち」 PART2 第29回
   手島圭三郎の描くいのちの絵本     
  
 
 私が所属しているかごしま文庫の会
http://www4.synapse.ne.jp/bunkonokai/index.html
の主催で、「手島圭三郎絵本原画展―北のいのち」を行った。2月15日から3月17日までの1ヶ月以上の長丁場のイベントを主催するのは、初めての試み。
素人のお母さんたちの集まりである会にとっては、かなりの冒険だったが、なにより自分たちが、北海道の大地に生きる動物の世界を力強く描いた手島さんの絵本の原画を観たいと、思いきって取り組むことにした。
十分な準備をして臨んだつもりだったが、初めのころはなかなか人が来てくれずやきもきさせられた。次第に会場を訪れた人からの口コミや地元紙南日本新聞への投稿をしてくださる方があって、入場者が増えた。最終日は、日曜日ということもあって、家族連れでにぎわった。

手島圭三郎さんは、1935年北海道紋別市生まれ。1957年北海道学芸大学札幌校
を卒業し、教員生活を経て、版画家として独立。1980年ごろ、当時福武書店(現、ベネッセ)の児童書部門編集長であった松居友さんとの出会いで絵本の世界に足を踏み入れられた。1982年に発行された『しまふくろうのみずうみ』は「絵本にっぽん賞」はじめ数々の賞に輝いた。私が手島さんの絵本に出会ったのもこの絵本が最初であった。
『しまふくろうのみずうみ』は、摩周湖を思わせる深い森に囲まれた湖が舞台になっている。夜になって、音もなく湖のほとりに現れたしまふくろうの親子。自分でえさの魚をとるとこができない子どものために、しまふくろうのおとうさんは、月の光に照らされた湖面に魚が浮かびあがるのをじっと待っている。
ピーンとはりつめた空気が読む者にまで伝わってくる。夜明けまで、交代で何回も何回も魚をとりに飛び立つしまふくろう。北海道の夜の冷たい空気のなかに響きわたる低くて力強いしまふくろうの鳴き声や、大きなつばさを広げて飛ぶ羽の音まで聞こえてきそうな絵本である。
この絵本のあとがきには、手島さん自身が少年時代、しまふくろうの飛来する北海道の自然のなかで暮らした体験がもとになってできたことが記されている。しまふくろうの「黄色い目とよく動く首と、そのうしろにひろがる大宇宙のひろがりときらめきは、少年の心に無限の神秘感をいだかせました」のだそうだ。
その後手島さんは、次々に絵本を発表する。1985年に、アイヌのユーカラをもとにした『カムイチカプ』で、厚生省児童文化福祉奨励賞。1986年『きたきつねのゆめ』は、イタリア・ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞。1997年の『おおはくちょうのそら』は、ドイツ児童文学賞絵本部門ノミネート賞。国際的にも注目される絵本作家になられた。
とくに、『おおはくちょうのそら』は、日本のそのころの絵本ではほとんどとりあげられなかった子どもの「死」を取り扱っている。

北海道の湖には、冬を越すためにたくさんのおおはくちょうがやってくる。春の訪れとともに、おおはくちょうはいっせいに飛び立つ。北の国に帰るのである。ところが、夕方になっても飛び立てない6わの家族がいる。子どもが重い病気で飛べないのである。この子が元気になるまで、待つつもりだったのに、いっこうによくなる気配がない。ある日、とうとうおとうさんは、つらい決断をくだす。病気の子を囲んで別れを惜しんだ家族は、飛び立っていく。置いていかれた子どもが、家族の消えた山かげに向かってかなしい声でないていると、とつぜん家族がもどってくる。その晩安心した子どもは、家族に囲まれて、息をひきとる。やがて、北の国にたどりついた家族が見上げた空いっぱいに、死んだ子どもの姿が輝きながら浮かびあがる。

やわらかいブルーの空に浮かぶ子どもの姿がきらきら輝くさまが描かれた最後の場面が、悲しい結末の絵本にぬくもりを感じさせてくれる。

ベネッセが児童書部門を閉鎖して、手島圭三郎さんの絵本の大部分の出版はリブリオ
http://www.liblio.com/teshima/
に引き継がれた。
リブリオに移ってから出版された絵本のなかにも「死」を扱った作品がある。
極寒に生きる生き物シリーズのなかでもとりわけ絵が華やかな1冊『たんちょうづるのそら』である。

いつでもいっしょに行動していたたんちょうづるのつがいがいた。ところが、おとうさんづるが病気になってしまって、死んでしまう。めざとく見つけたカラスについばまれ、おとうさんの体は、とうとう羽だけになってしまう。それでも、その羽のそばを離れないおかあさん。しばらくして、ほんの少し残っていた羽も風に吹き飛ばされて、跡形もなくなってしまう。長い時間がすぎて、新しい生活を求めて飛び立つおかあさんづる。やがて、あらたなパートナーに出会う。

死別の悲しさを描いた絵本だが、これも最後の喜びの舞を舞う2羽の姿は圧巻である。

10作品170点もの原画を展示した鹿児島での原画展は終った。南国に住む身には,容易に体験できない北の自然の厳しさと動物たちのたくましさの一端を伝えてもらった。

観に来てくれた子どもたちの多くが、会場に備えてあった感想ノートに、自分の絵を描いてくれた。言葉でとおりいっぺんの感想を書き並べるよりも、深く心に感じたことを絵で描き表したかったのだろう。ひたすら描く子どもたちの横顔を眺めながら、すぐれた絵本が子どもたちの心に呼びかけるものの大きさを感じた。

これからも、いのちの授業で出会う子どもたちに手島さんの絵本の世界を届けていきたい。

□関連ホームページ

かごしま文庫の会活動トピックスhttp://www4.synapse.ne.jp/bunkonokai/sub16.html

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