死を学ぶ子どもたち PART2 第27回

がん告知をめぐって


                     
 私は、現在本務の合間をぬって、2か所の看護学校で非常勤講師をしている。
科目は「生命倫理と医療」。そのなかで必ずとりあげるのが「がん告知」をめぐる問題である。

 いろんなところで話したり書いたりしているが、私が死を語る「いのちの授業」を始めたきっかけは、自身のがん体験である。進行性胃がんで胃全摘の手術を受けてから、もうじき8年になる。検査のため入院する前日、夫は私に質問した。「どうだ、がんだったら告知してほしいか?」私は「いやだ。怖いから知りたくない」と答えた。当時は、なんにも知らない、ごくごく普通の患者であった。

 現在進行中の金八先生のドラマでも、息子の幸作くんに告知をするかどうか金八先生が悩む場面があった。

 私は、看護学校の講義の前に必ずアンケートをとる。受講生は両校で160名ほど。今年度の受講生の回答は、次のような結果になった。

1.あなたががんにかかったとしたら、そのことを知らせてほしいと思いますか?

a.知らせてほしい 79.6%
b.知らせてほしくない 13.2%
c.その他  5.2%

2.「知らせてほしい」と答えた人に〜あなたはがんだと知らされたとき、医師に治療をすべて任せたいと思いますか、それとも病状など詳しく聞いて手術するかどうかなど自分である程度の治療方法は選びたいと思いますか?

a.医師にすべて任せたい  7.3%
b.自分でも選びたい 78.8%
c.その他 4.4%
d 無回答9.5%

3.万一あなたの家族ががんにかかった場合、あなたはそのことを本人に告げますか?

a.告げる  48.9%
b.告げない 31.4%
c.その他  17.5%
d 無回答 2.2%

4.あなたは仮にがんなどの重い病気で回復の見込みがない状態になった場合、
次の二つの治療方法のうち、どちらを選びたいですか?

a.人工呼吸器を使うなどして延命治療を最後まで続けてほしい 2.9%
b.そのような延命治療はしないで自然な死を迎えたい 83.9%
c.その他  11.0%
d 無回答 2.2%

5.もしあなたが回復の見込みがない状態になった場合は、最期のときはどのようにして過ごしたいですか?

a.最期まで病院で治療を受けたい  0%
b.緩和ケアのできる病院もしくはホスピスですごしたい 21.2%
c.できたら自宅ですごしたい 65.0%
d.その他  5.1%
e.無回答  8.7%

この結果を見て、どんな感想をもたれただろうか?

 新聞でときおり同様のアンケートがおこなわれる。年齢も職業もさまざまの人を対象にした新聞のアンケート結果に比べ、医療職を目指す若者の集団の方は、さすがに、がん告知を望み、医療も自分で選びたいとする回答が多い。

 だが、こと家族のこととなると、とたんにはぎれは悪くなる。「告げる」という回答は半数以下になっている。自分自身は、がんであることを受けとめて、主体的に医療を選ぶつもりでいるのに、家族は、告知に耐えられない、と考えているのである。愛する家族に告知して、「死」を意識させるのは、かわいそうという感覚も強く働くのだろう。

 しかし、家族の方だって、回復の見込みがないときは、無理な延命治療などせず自然な死を迎えたい、と考えている人が多いはず。最期のときは、ホスピスか、自宅ですごしたい人も少なくないだろう。でも、告知されていなければ、自分の意思を伝えるチャンスすらないことになる。

 子どもたち対象の「いのちの授業」と同じように、絵本やビデオやインターネットを使って、患者の思いを伝える講義にしている。最後は「誰でも、最期の貴重な時間を自分自身で納得して生きるために、きちんと伝えることが必要だと思う。もちろん、最期まで希望を捨てないで生きることのできるようなサポートが必要なことはいうまでもない。医療者として、とくに看護職という患者に近い立場で、どうサポートできるか考えてほしい」と締めくくっている。



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