死を学ぶ子どもたち PART2 第24回
『せかいいち うつくしい ぼくの村』


                     

 10月初め、ついに100回目になった「いのちの授業」のために鹿児島市内のT中学校を訪ねた。T中の2年生は、今年「平和と人権」をテーマに総合的学習を続けている。
 1学期は、知覧の特攻平和記念館を訪れ、2学期には長崎に修学旅行に出かけ原爆体験者の話を聞いている。授業の恒例になっている生と死に関するアンケートに、T中では「アメリカでおこった同時多発テロ事件や報復、日本との関わりについてどう思いますか?」の項目を付け加えてくださった。
寄せられた回答は、さすがに中学生。じつに多彩だった。

(テロについて)
 ・多くの罪のない人が無くなったテロ事件は許せない。
 ・テロはひどい!
 ・残念な気持ち。  
 ・ビン・ラディン氏が悪い。・ラディン氏がつかまってほしい。
 ・テロはどうして人をみちづれにするんだろう。
 ・かわいそうだと思う。
 ・こんなことが2度あってはいけないと思いました。
 ・無差別に人を殺すことは絶対に許せない。
 ・被害者の家族やアメリカの人々がかわいそう。
 ・なぜテロをおこすんだろうと思った。戦争になればまたたくさんの人が亡
 くなってしまう。だから戦争は絶対してほしくない。
 ・まきこまれた人がかわいそう。でもやった人たちにも考えがあるわけだか
 らそれを聞いてみたい。

(報復攻撃について)
 ・戦争はしないでほしい。
 ・アメリカの怒りはわかるけど戦争はよくない。
 ・戦争で解決するんじゃなくて話し合いで解決すればいいと思う。・戦争反
 対!!
 ・たくさんの人がなくなったので,話し合って戦争をなくしてほしい。
 ・話し合って平和であってほしい。
 ・アメリカの問題は,たぶん,世界の問題。これ以上ぐちゃぐちゃになるわ
 けにはいかな いので,まるくキレイにおさめたい。
 ・解決するならやっぱり「戦い」ではだめだと思う。
 ・そこが犯人のいる地でも何もしていない人までまきこんだら,関係ない人
 の命まで奪ってしまうから戦争はぜったいだめだと思う。
 ・テロはいけないことだと思うけど,報復攻撃は多くの人たちを苦しめるか
 らもっとだめ だと思う。
 ・やられたらやりかえしていいと思う。
 ・人が人を傷つけることはしてほしくない。
 ・わざわざ戦争になる原因をつくるなんてホントに馬鹿だと思う。それに関
 わりたくない人まで,まきこまれるのは目にみえてるのにまったく迷惑なこ
 とをしてくれる。
 ・これ以上犠牲者を出さないでほしい。
 ・アフガニスタンやその周辺の関係のない人を殺してほしくない。
 ・報復で解決するのはまちがっていると思う。もっと他の方法はないのかと
 思う。

(日本のかかわり)
 ・日本は憲法を無視していると思う。
 ・日本はあまり関わらないでほしい。
 ・戦争はしてほしくないと思う。だけど,日本はアメリカに守ってもらえる
 かもしれないからアメリカに協力したほうがいいと思います。
 ・日本は長崎や広島に原爆を落とされ,たくさんの人の命を奪われたから戦
 争はしないと 決まったはずなのにそれを改正するのは絶対におかしいと思
 う。私達のことも考えてほしい。憲法改正絶対反対!!
 ・日本は戦争に加わってはいけないと思う。アメリカは報復しないでほしい。
 ・日本は「戦争はしない」と憲法で決まっているのにアメリカに協力するの
 はおかしいと思う。
 ・早く終わってほしいし,日本を戦争にまきこまないでほしい。
 ・もう少しアメリカを応援して,日本も自衛隊を派遣したほうがいい。
 ・日本はアメリカに協力すべきだ。
 ・日本に被害がこないことを願っている。
 ・日本にもアメリカの基地があるから危ないと思った。
 ・不景気なのに資金援助などして,大丈夫なのかと思った。
 ・テロの問題は世界の問題だと思う。だから日本は,しっかり復旧作業やで
 きることはし たほうがいいと思う。
 ・日本もまきこまれることがおかしいと思います。
 ・日本の憲法で戦争はしてはいけないとあるけど,もう半分くらいは関わっ
 ていることが 嫌だ。

 このT中での授業の最後に紹介したのが『せかいいち うつくしい ぼくの村』(小林 豊 ポプラ社)。これは、現在アメリカの報復攻撃の目標になっているアフガニスタンが舞台になっている絵本。1995年に出版されている。
アフガニスタンは、アジアのどまんなかの国。雨がめったに降らない国ですが、万年雪をかぶった山、森や草原もある。春には草花が咲き、夏には果物が実る。絵本の主人公ヤモの家も、すももやさくらんぼうやなしを栽培している。夏になると、父さんといっしょにたわわに実った果物を売りに市場に出かけていく。
にいさんが、戦争にいっているので、幼いヤモも大事な働き手なのだ。
ヤモの国では、戦争はもう20年以上も続いている。荒れた土地をすてて外国に避難した人も多い。市場でヤモのさくらんぼを買ってくれたおじさんも,戦争で片足をなくしていた。
さくらんぼがみんな売れて、こひつじを買って家路につくうれしそうなヤモの姿で、絵本は終わっている。しかし絵本のモデルになった美しい村は、爆撃を受けいまはもうないそうだ。今回の報復攻撃で、またまたヤモの村みたいに破壊されてしまう村が増える。
戦争がなくなって、ヤモの村がふたたび世界一美しい村によみがえる日がくるのだろうか。
この絵本の作者,小林豊さんは、1970年代から、たびたび中東アジアを訪ねているという。
同時期に出版された高学年向けの本に『なぜ戦争はおわらないのかーぼくがアフガニスタンでみたこと』(ポプラ社)がある。

 ブックトークを使った「いのちの授業」を続けている私は、同時多発テロや報復のことを(T中のように)子どもたち自身が考えるきっかけになる本を探し求めた。イスラム教や、餓えに苦しむ子どもたちに関する本はいくらか見つかったが、肝心のアフガニスタンについて、子どもたちが読んで理解できそうな本を探すのはかなり難しかった。私が探したなかでアフガニスタンのみに焦点をあてたのは、6年もまえにだされたこの2冊だけだった。(お気づきの本がありましたら、ぜひ教えてください)

 子どもの本や絵本は、やはりある程度豊かで平和な国でないと出版されていな
いし、豊かな国に住む書き手たちも戦乱がつづく貧しい国のことをあえて題材にはしない。それでも一方的に押し寄せてくるメディアの情報だけに流されないためにも、自分自身で確かめ、考える機会を子どもたちにももってほしいと思う。



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