死を学ぶ子どもたち PART2 第22回
『「いのち」を食べる私たち』
          
                      

 以前このMMで「いのちをいただく」実践を報告した。アイガモを使って米
作りをした鹿児島市内のK小学校の子どもたちが、そのアイガモを食べるかど
うか真剣に考え,取り組んだ実践である。MMにも多くの読者から賛否両論が
寄せられた。
 
 そのMMでも紹介したが、子どもたちに「いのちの大切さ」を伝えるために
行われた先駆的な実践として、鳥山敏子氏のニワトリを殺して食べる授業があ
る。
 この授業を受けたかつての子どもたちを訪ねて、あの授業がもたらしたもの
を丹念に取材した本が最近出版された。『「いのち」を食べる私たち』(教育
史料出版会)である。

 著者は金沢大学の村井淳志先生。私の「いのちの授業」のきっかけになった
金森俊郎先生の本『性の授業、死の授業』の共著者でもある。村井先生の本来
の専門は、歴史教育。歴史教科書問題などへの対応も多忙ななか、もちまえの
フットワークの良さを生かしてまとめられた労作である。

 今回の著作のねらいは、ニワトリを殺して食べる授業実践の研究報告を通じ
て、「死」をリアルに見つめ、「死」からの乖離を解くことだという。

 内容は、瀬戸内海の島で夏休みにおこなう海洋冒険キャンプのなかで、ニワ
トリを殺して食べている関西学院中等部の実践を現地に取材したものに始ま
り、鳥山学級の子どもたちを一人ひとり訪問し、聞き取り調査をしたもの、さ
らに、自ら金沢大学教育学部の学生といっしょにニワトリを殺して食べた実践
がまとめられている。

 私にとって,興味深かったのは、補論のような形になっている絵本『のにっき』(アリス館)をめぐる報告である。金森学級で『のにっき』に出会った著者は、イタチの死をリアルに扱った絵本の内容に驚き、出版社や著者にコンタクトをとり、絵本に込められた思いや出版の反響を探っていく。出版社に寄せられた読者カードから、この絵本の読み聞かせを繰り返しせがんだ保育園児の追跡調査までやってのけている。

 40年以上も前に子ども時代をおくった私は、庭で放し飼いにしていたニワ
トリをつぶす場面はしょっちゅう目にしていた。羽をむしったり,内臓を洗っ
たり、子どもなりにやれる手伝いもやっていた。特別の教育を受けなくても、
他の生き物のいのちを食べて生きているという実感があった。しかし、現在は
農村地帯でも養鶏農家でない限り、そういう光景には出会うことはできない。
イタチのような大型の動物の死体が朽ち果て土になる過程も目にする機会はな
い。著者のいう「死との乖離」が進んでいる結果である。

 「死との乖離」を埋める「いのちの授業」の方向を考えるヒントに、本書の一読をおすすめしたい。

○関連ホームページ○

『「いのち」を食べる私たち』(教育史料出版会)
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-byiaf02626&bibid=02033421

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