連載 死を学ぶ子どもたち PART2 第21回
 MBCテレビ「いのちの語り部」(2001.5.31放送)のこと


                       

 地元鹿児島のテレビ局MBCのディレクターAさんから、いのちの語り部という番組をつくりたい、協力してもらえないかと相談されたのは、昨年12月。
 まもなく、企画書がメールで送られてきた。「少年による凶悪事件や子供の自殺が相次ぐ中、教室で死について取り上げる試みが少しずつ広がっている。人生の志半ばでガンに倒れた人々を看取った遺族が亡くなった肉親からうけたメッセージとは?
  ガンにかかり、命に限りがあることを知った方が命の大切さを訴えて学校現場を周り、子供達へ伝えようとしているメッセージは何かを探り、命の尊さを描く」とあった。

 私がAさんに出会ったのは、6年前のこと。進行性胃がんで5年生存率20%を
告げられ、あれこれ治療法を探し歩いて、鹿児島市内の堂園晴彦医師のもとに
たどりついてまもない頃である。Aさんは、終末期医療に情熱を燃やす堂園医師に出会い、がん医療を考える番組をつくる準備をすすめていた。ところが、当時のがん告知率は20%足らず。TV番組で、インタビューを受けてくれる患者を探すのは至難の業だった。私自身も、告知時に「がんであることを他人に言わない方がいい」との手術時の主治医の忠告もあって、周りに公表することをためらっていた。インタビューを受けてほしいというAさんのひたむきさには心動かされたが、テレビというメディアの影響力を考えたらしりごみした。

 それまで、がんであることをひた隠しにしてきたのに、テレビに出ると、「あの人がんだって」といううわさだけが鹿児島中に広まる。それは困る。悩んだ末に私が出した結論は、体験を本にすることだった。映像を見た人が本を読んでくれれば、私の気持ちをきちんと伝えることができるはず。『知りたがりやのガン患者』が世に出るきっかけをつくってくれたのがAさんだったわけだ。

 Aさんの取材は2月から始まった。2月22日は、骨肉腫のため18歳で亡くなった原口明子さんの命日。私はちょうどそのころ、彼女の母校である金峰中から「いのちの授業」を依頼されていた。後輩たちに、最期まで希望を捨てなかった明子さんのことを語ろうと決めていた。一方、種子島に住む西村徹さんは、小児ガンのために6歳で亡くなった息子の知己くんのことを息子の同級生たちに語る授業を予定されていた。この2つの授業を縦軸に、明子さんや知己くんの家族友人への取材を横軸に、取材は丹念に続けられた。ときおり、進行状況を知らせるAさんのメールが届いた。

 結果的にシナリオは8回も練り直されたらしい。放映を10日後に控えたころ、「語り部」だから、ナレーションまでやってほしいとの依頼が飛び込んだ。私がやるなんておこがましいという気持ちもあったが、明子さんのご両親にも励まされて、初めてのナレーションに挑戦した。

 あらかじめシナリオを読んでいた私にも、映像を伴う本番の放送は感動的だった。小さな体の知己くんが、最期の運動会で懸命に種子島音頭を踊っている姿は、いまでも目にやきついている。明子さんが、足を切断する前の晩、紙に足型を描いて「18年間ありがとう。ごめんね」と書き添えた映像にも涙が止まらなくなった。明子さんを最期まで支えたボーイフレンドのインタビューにも胸をうたれた。彼のお母さんが病床の明子さんに書き送られた葉書も、素敵だった。最後に挿入された知己くんの同級生砂阪くんの作文「知己くんは,ぼくたちに命の大切さを伝える天使だったんじゃあないかな」の言葉は、みごとに番組の意図を表していた。

 放映以降、多くの方から「見ましたよ」と声をかけていただいた。代表して、家族揃って番組を見たという友人からのメールを紹介する。
 
 ああいう番組を作ってもらってみることができて本当に良かったです.第1にともき君やあきこさんという人たちの生き様を知ることができたことです.
 あんな子ども達や女の子がこの鹿児島にいてあんな生き方をしていたんだ.と知ることができたことはとても価値のあることでした.
勇気をもって語って下さるお家の方々に感謝しています.
そしてそういう子どもさんをもたれたことを誇りに思われるといいと強く感じました.こういう番組を制作された方々にも感謝します.
本当にこの時代に一番必要なことですよね.
もっともっと多くの人にみて欲しいです.(学校現場とか)私も多くの人に知らせましたが・・・

 道徳の時間に子どもたちに見せたいとビデオにとった先生も少なくないらしい。これからも、生きたくても生きられなかった二人が残した命のメッセージが、子どもたちに届けられるだろう。Aさん、いい番組ありがとう。


関連ホームページ
○知己くんの「いのち」に学ぶ部屋
http://homepage2.nifty.com/murasueyusuke/tomoki`s%20room.htm
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
参考 当時のMBC番組案内

 5月31日放送予定

命の尊さを伝えようとする人達がいます。

 次男を白血病で失った、種子島に住む西村徹さん。2年程前から、学校が好きでたまらなかった知己くんの思いを子供達に伝えており、今年3月には知己くんの同級生達の前で初めて命の授業をしました。

 鹿児島市で長年、子ども文庫活動に取り組んできた種村エイ子さんは、胃ガン宣告という辛い経験から立ち直り、死ぬまで生きることを決意。小中学校をまわり、自らの経験とともに絵本や本で知った、生きたくても生きることができなかった子供達のことを話しています。
 その種村さんの話の中にでてくる子供の一人が、17歳の時骨肉腫で亡くなった原口明子さん。種村さんの授業に登場する原口明子さんと西村知己君の生き様・・・そして、息子の同級生の前で自らの子供の生き様を語る西村徹さんの授業を通して、命の尊さを訴えます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

トップ