連載★「死を学ぶ子どもたち」PART2 第16回

     「いのちをいただくーその2」


                  
 11月半ば、私は鹿児島の有機農業研究会などが主催する「生命のまつり」のプレイベントに招かれた。屋久島に住む詩人の山尾三省さんと「いのち・環境・子育て」のテーマで対談したのだが、その折主催者の一人として、K小学校のPTA会長Hさんも参加され、K小のその後の取り組みを報告してくださった。

 あいがもを食べるかどうかについて子どもたちの考えを載せた「学年便り」もいただいた。
それによると、K小学校の5年生は

  1  今,自分たちは何を食べているか
  2 それらは、食べる前は、どうしていたのか
  3  食物をつくるのは、どういう人が働き、どういう思いが込められているのか
  4   私たちの食べ物は,歴史的にどう変わってきたのか

の各項目で調べ学習に取り組んでいる。

その学習の過程で、あいがもを食べるかどうか揺れ動く子どもたちの心情が綴られている。

その1

 私はあいがもがとっても好きです。それは、私たちが思いをこめて植えたお米をもっとおいしくしてくれたし、いっしょに遊んだりして、友だちみたいだからです。
 私は、あいがもを食べた方がいいのか、食べない方がいいのか分からなかったけど、「家畜はただ死んでしまうより人が食べた方がいい」と思って、「あいがもを食べよう」と決めました。私はちょっとさびしいけど、食べようと思います。でも、それまでいっぱい遊びたいです。

その2

 ぼくはあいがもを食べたいです。
そのわけは,ぼくたち人間は,生きているものを食べて生活しているからです。あいがももいっしょだと思います。前にテレビで見たのですが「動物を捨てるなら、自分の手で料理して食べた方がいい」と言っていました。捨てることはその捨てたものの「いのち」をそまつにすることです。反対に「食べる」ことは、その殺したものの「いのち」をさずかって、自分のなかでその「いのち」が生きていることです。
 あいがもを食べたら、あいがもは人間の体で生きていることになります。反対に食べずに捨てたら、あいがもの「いのち」をそまつにすることです。

その3

 私はあいがもを最初食べたいと思っていたけど、私たちがつくった小屋にあいがもがきたとき、なんか、あいがもは夜もずっとあそこにいて、あとは食べられるのを待っているだけなんて考えたらかわいそうです。でも、豚や牛は食べているんだから、しかたがないのかなとも思います。

 この子どもたちの調べ学習の成果は11月末、親たちの前で発表された。思考錯誤しながら取り組んだ教師たちは、子どもたちの成長に教えられたという。
ただ、あいがもを食べるかどうかの結論はまだ出ていない。子どもたちは、食べる方に傾いているらしいが、親たちの間から、「かわいそう」との声が出ているらしい。無理もない。若い親たち自身が、生き物を殺して食べた経験をもっていないのだから。先の山尾三省さんとの対談の折も会場から「小学校であいがもを食べるべきではない」との意見も出された。親たちにも学んでもらうため、K小学校では、また萬田先生にお願いして、食をテーマにして親子で学ぶ「親子セミナー」を設定した。このときも案内いただいたのに、私は参加し
ていない。残念!

 しかし、あいがもを食べるかどうか考えていくうえにヒントになる本に最近出合った。
それは鹿児島の南方新社から出版された『楽しい不便』。毎日新聞の西部版に連載された大量消費社会に立ち向かった記者の実践ルポである。自転車で通勤し、エレベーターに乗らず、無農薬で畑をつくり、あいがもでお米をつくったという興味深い報告のなかに、小学生の娘といっしょにあいがもを殺し、調理する場面が出てくる。リアルな描写にかかわらず、残酷さは感じない。「いのちをいただく」という厳粛な意味が伝わってくるのである。

 なお、子ども向けの本としては『アイガモ家族―カモが育てるゆかいな米づくり』(佐藤一美著 ポプラ社)がある。「あいがも水稲同時作」の先駆者福岡の古野隆雄さん一家をモデルにしている。萬田先生のことも詳しい。

 前回紹介した農文協のビデオシリーズには、石川県木場小の「学校田でおもしろ稲作体験―アイガモといっしょに米づくり」がある。こちらは、米づくりの過程を子どもたちがパソコンを使ってプレゼンテーションまでやっている。しかし、この小学校でもアイガモを食べるところまではいってないようだ。

 K小学校の模索はまだ継続中である。そのため、今回は学校名は匿名にさせていただいた。


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MM小学編集者からのメッセージ

●生活の中で、毎日のように食べている生き物を殺す場面を見たことがない。
どこかで誰かが準備してくれた物をお金を出していただいている。種村さんが
今回、紹介された実践には、私個人の見解はなかなかまとまりそうにない。読
者の皆さんは、どのようにお考えになりますか。よかったら、メールを送って
ください。

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