死を学ぶ子どもたち PART? 第15回 

   「いのちをいただくーその1」

                     
                
 7月のある日,鹿児島市のK小学校6年生対象の「いのちの授業」に招かれた。K小学校は,鹿児島市の北の端,周りは川や田んぼに囲まれたところで、PTA会長を務めるHさんは、長年有機無農薬農業に取り組み、地域の農家のリーダーとしても知られている。数年前には、富山和子さんをPTA講演会の講師として呼ばれたこともある。今年は校庭の一角に、ビオトープをつくり、ほたるを始め、多くの水生動物を育てている。1年生では「消えたりんご」というユニークな実践もやっているそうだ。りんごと鉄とプラスチックを土に埋めておいて、しばらくしてから取り出すのだそうだ。

 この学校の5年生は、7〜8年前からHさんを始めとする地域の方の協力を得て、あいがもを田んぼに放した米作りにも取り組んでいる。こういう学校での授業は,私自身が学ばされる点が多いので、出かけるのが楽しみでもある。

 ところで当日、6年生向けの授業が終わった後、かけつけてくださったHさんと話していたところ、5年生のあいがものとりくみが話題になった。K小学校のあいがもは、いつもは田んぼでの役割が終わる8月末になると、Hさんの方で引き取っておられたのだが、今年は子供たちに、あいがもを食べるところまで実践をやって欲しいのだという。
以前から何度か、そういう実践を提案し、あいがも農法の研究者である鹿児島大学の萬田先生に来てもらって,子供たちに話をしてもらったりしたが、先生方や親たちがなかなか踏み切れないでいたのだそうだ。

 ご存知のとおり、あいがもでの米作りは、あいがもが田の草や害虫を食べてくれたり、動き回って、稲の生長を助けたり、糞が肥料になったり、一石何鳥もの効果がある。それだけでなく、米とあいがもの肉を同時に生産する役割を担っている。田んぼでの役割が終わったあいがもは、肉として利用されて始めて、あいがも農法は完結するというわけだ。

 私が訪問した日も暑いなか、子どもたちは田んぼのあいがもの様子を見に行っていた。
あいがもに名前までつけてかわいがっているそうだ。そういう子どもたちに、あいがもを食べることを提案するなんて、と先生方のなかにもためらいがあるようだった。

 生き物を食べることで、自分たちの命は他の命を「いただく」ことで維持されていることを伝える実践は,鳥山敏子さんが教師時代に手がけられて、本や映画になり、広く知られている。しかし、あの実践で食べたにわとりや豚は、子どもたちが飼っていたものではない。

 私は、K小学校の先生方やHさんに、農文協発行の雑誌「食農教育」に紹介されていて、私自身が感動した長野県伊那小学校のビデオを薦めた。

 伊那小の実践は、本やテレビ番組でしか知らないが、低学年でかなり大型の家畜を飼う実践が長い間行われている。このビデオは、2年生のクラスで飼っていた豚が大きくなって、子豚を生み、その子豚が肉用として出荷されるまでを描いている。出荷したあとの肉を自分たちで食べるかどうかを3年生になっていた子どもたちが,真剣に討議をしている。結果的に,「一人でも食べたくないという子がいたら食べない」ということで、伊那小では,食べないことに落ち着いた。だが、その思考の課程がたいへんにすばらしい。
地域と結んで、「いのち」や「生きる」ことを学んでいる筋金入りの総合学習の実践記録としても、お薦めのビデオである。

「食農教育」の熱心な読者でもあるHさんは、早速そのビデオを取り寄せ、K小学校の先生方とともに見てくださったようだ。

あいがもは、稲の穂が出揃う夏の終わり、今年は学校に引き取られた。5年生
の子どもたちがクラスごとに小屋や池をつくり、飼うことになった。

運動会が終わるとすぐに稲刈りの季節。5年生では、本格的な「いのちをいた
だく」教育実践が始まった。
(ただ、私自身はそのたびに招待をいただいたのに、都合が悪く参加していな
いので、いただいた資料で報告することにする。)

まず、Hさんをゲストティーチャーに招き、「家畜とは」の授業をしてもら
う。次に、稲刈りのとき、豚汁をつくって食べ、人間は「他の生き物の命をい
ただいて生きていること」を確認する。
そして、もちつきのとき、あいがもを食べるかどうかを考えて欲しいと提案す
る。

5年担任の間では、とにかく自分たちで真剣に考えてほしいので、伊那小のビ
デオは、この時点では子どもたちには見せないでおく。一人でも食べたくない
という子がいたら,無理をしない。食べるのが目的でなく、「いのち」や「生き
る」ことを学ぶのが大切だと確認しあったそうだ。

子どもたちの学びはすばらしい。長文になるので、その様子は次回に報告する。
なお、この実践は,明けて行われる全国教研集会の「いのちと環境」の分科会
で報告される予定である。

 
  
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MM小学 編集長からのメッセージ

●私の住む鹿児島でも先駆的な実践が各地で行われています。種村さんが、今
回のようにさまざまな実践を紹介してくださること、とても感謝しています。
情報は発信する人のところに集まると言われます。その通りですね。

●私は、かつて菜食主義に挑戦し、断念してきた経験があります。生き物の命
をどう考えるか。子どもたちから問われると弱いところがあります。鶏の丸焼
きや、手作りソーセージはキャンプでの定番メニューなのですが、今だに自分
では鶏の命を絶つことはできません。あいがもの実践、とても興味深いものが
あります。
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関連ホームページ
http://www.ruralnet.or.jp/syokunou/200401/01_zadankai.html

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