連載 「死」を学ぶ子どもたちーPARTU 第13回
 「ドイツで学んだこと その2」 




                   

病気になった子ども本人へのサポートだけでなく、その家族への社会的支援体制にも目を見張りました。日本なら,子どもが小児ガンなどの重い病気になった場合、仕事を辞めざるを得ない母親が多いでしょう。いつまで続くか分からない闘病生活に精神的にも経済的にも不安な状態に追い込まれてしまいます。

ところが、ドイツでは、病気の子に付き添う母親は、仕事を辞める必要はないとのこと。もし職場から給料が支給されなかったら、ソシアルワーカーが健康保険から支給されるよう手続きをしてくれるそうです。もちろん、いつでも職場に戻れるのだそうです。

病棟には簡単なキッチンがあります。親が食事をつくって子どもの食べさせたり、親同士の交流の場になったり、小さいけれど貴重な場だそうです。

自宅から遠く離れた病院に入院する子のために、親が長期に滞在する宿舎も近くにあり、無料だそうです。日本では、ようやくボランティアの手で、そういう宿舎の提供が始まったばかりです。善意によるものですから、もちろん有料です。詳しくは『病院近くのわが家』(朝日ソノラマ)をご覧ください。この本の作者岩井啓子さんは、私の友人のお姉さんです。心臓の手術のあと亡くなられたのですが、妹さんの手で出版されたものです。

病気の子以外の他の兄弟も気になる存在です。親は病気の子にかか
りっきりですから、その他の子の心にぽっかり穴があいた状態になることもあります。
『ハッピーバースデー』(青木和雄作 金の星社)の主人公飛鳥のお母さんもそういう過去の持ち主という設定になっていました。その穴が埋まらないまま,大人になって、飛鳥へ「あなたなんか生まなきゃ良かった」というせりふになったようです。

キンダークリニックの隣には、病気の子も、その兄弟も自由に滞在し,遊べる「キンダープラネット」という施設もありました。この内部のレイアウトの楽しそうなこと。デジカメにばっちり収めてきました。これは、ドイツにいま6ケ所あるそうです。最初は、小児ガンの子どもを亡くしたお母さんが15年間寄付を集めて設立されたそうです。

キンダークリニックとキンダープラネットの隣は広広とした専用の庭もありました。

院内には,子どもたちが学習できる院内学級もあります。日本と違うのは,地域の学校から派遣されるのではなく、院内学級専門の先生が教えるのだそうです。子どもたちが退院するとき、復帰する学校まで出かけて、橋渡しをするのも重要な役目です。

退院した子どもが学校や家庭に復帰する前に滞在できるリハビリのための施設もあります。温泉があったり、自然の豊なところで、家族ぐるみ滞在できます。もちろん,費用は健康保険でまかないます。

うらやましかったのは、小児ガンの子どもを抱えた家族のために、無料で情報を惜しみなく提供する機関があることです。印刷された資料を送ってくれたり、HPからダウンロードもできます。日本のがんの子どもを守る会みたいなところですが、ボランティアの枠で行われているのではなく、しっかりした財団(基金)のようでした。

病棟にもキンダープラネットにも家族や子どもが自由に使えるコンピュータがありました。入院して閉塞観をもっている子どもたちももとの学級の子どもたちや,同じ病気の子どもと交流して、いい効果をあげているそうです。

もちろん、すべて公費で賄っているわけではありません。ドイツもかなり財政は厳しいらしく、病院スタッフの削減も行われているようです。病気の子を抱えた母親への給与保証も「いまのところはね」と言ってましたから(正確には言ってたそうですから)、いつまで続くか定かでないということでしょう。

それにしても日本は豊な国なのに、こういう方面にお金が使われていませんね。われわれの努力が足りないせいでしょうか、とは知り合いの小児科医師の言葉です。

ドイツでも当事者が声をあげたから、制度として整えられたのは事実です。それに所得税の1割を教会税として徴収しているそうで、社会福祉の部分に教会が手を差し伸べるという社会背景もあります。

それにしても、格差の大きさにため息の出る思いでした。

大人のガン患者へのサポートについては、あまり調べてこなかったのですが、二村さんが翻訳された『がんを超えて生きる』(人文書院)が参考になります。

ドイツのホスピスは緩和ケア病棟とは同じでないということも今回初めて知りました。ホスピスはまさに家庭の延長です。医師は常駐していません。ホームドクターが週に数回出かけてくるシステムのようです。

なお、二村さんは、あいちホスピス研究会の会員でもあり、ちょくちょく帰国され、国内で講演される機会もあるようです。テーマや日時・場所がわかったら、お知らせします。


○関連ホームぺージ○
種村エイ子さんのレポート「ドイツ小児がん事情」
  http://www.cypress.ne.jp/donguri/Top.html
  種まく子どもたち

トップ