死を学ぶ子どもたち PART2 第11回
 「ほしふるでんごんばん」
           
               
                   
 1ケ月ほど前のこと「聞いて下さい」というタイトルで悲痛なメールがとびこんできました。

 私の友達の息子さん、うちの息子の友達でもある25歳の青年なのですが・・・、小さいころから活発で、ソフトボール、柔道、ラグビーをし、いかにも強健という感じだったのですが。小学校の時、ガンでお父さんを亡くし、お母さんは、二人姉弟を、一人で育ててこられました。年末の結婚も決まり、ほっとし、さあこれからという時、会社の検診で胃がんがみつかったのです。しかも末期がんで手術もできないということでした。あと2カ月の命ともいわれたらしいんです。お母さんも、仕事が忙しかったり、身内の不幸があったりで、気づいてあげられなかったようです。ちょっとむごい話ですよね。家も近くで、小学校のころ、うちの子とよく遊んだ時期があって、助かってほしいなあ、奇跡はおこらないものかしら、と毎日思っているのですが。
                             
 自分のがん体験を『知りたがりやのガン患者』に書いて以来、全国のいろんな方から手紙や電話、メールで相談を受けます。それでも、こんな深刻なのはあまり経験がありません。「今、何をしてあげられるかしら」とのメールに答える術がありませんでした。とりあえず「種まく子供たち」の伝言板を見て、と返事を送りました。
「種まく・・・」 
http://www.cypress.ne.jp/donguri/Top.html
は、このMMでも紹介した佐藤律子さんがつくっているHPです。

 この伝言版には、病気のためにお子さんを亡くされた方、難病と診断された方など、いろんな事情を抱えている方からの書き込みが続いています。そのひとつひとつに見ず知らずの方からの返事が綴られます。それらの書き込みのひとつひとつを読みながら、こういうときのためにインターネットはあるんだと実感します。

 
 ところで、私の主治医の堂園晴彦医師は、たとえ相手が子どもでも「うそはつかない」ことをモットーに必ず本人に病気のことを正確に伝えておられます。ホスピスですから、患者の大多数は治る確率の高くない人たちです。そのうえで「今何がしたい」と問いかけて、その願いがかなうよう,必要なサポートをされます。中学生や高校生は、ほとんど学校に行きたい、受験をしたい、入学式(または卒業式)に出たい、修学旅行に行きたい、という願いが多いそうです。大人の場合は、子どもの結婚式に出たい、海外旅行をしたい桜を見たい、クリスマス(または正月)を家族と過ごしたい、などがあります。家族の方が「かわいそうに娘の花嫁姿も見ずに逝くなんて」と嘆いていた声を聞きつけた ホスピスのスタッフとボランティアが、まだ高校生である娘さんにウエディングドレスを着せて患者であるお母さんに見せてあげたというエピソードもあります。
 痛み止めの薬持参でニュージランドに2週間ツァーで出かけたりした方もいます。教え子を枕もとに呼んで一人ひとりにメッセージを遺して亡くなった塾講師もいます。

 25歳の青年の方には最愛の婚約者がつきっきりで看病しているようです。
たとえ,二人で過ごす時間は短くても、きっと密度の濃いかけがえのない時間が二人の間に流れていることと思います。病気の方は小康状態で子どものころ通った渓谷に足を運んで、しばし水とたわむれることもできたそうです。しばらくこのままで、本人と家族、まわりの方々にとって、いい時間が続いてくれることを願っています。
 
 
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