連載 「死」を学ぶ子どもたちーPARTU 第7回
         
ホスピスの授業


                
今回は3月6日(西部版は7日)付朝日新聞に掲載された鹿屋市立寿北小学校6年4組(37名)での「ホスピス」の授業を紹介します。

               授業者 種村エイ子、蔵満逸司
◆授業のねらい

(1)予定された死を前に、身体の治療より心の「癒し」を実現す る場としてホスピスがあることを子どもたちに伝える。
(2)心の「癒し」とは何かを考える。
(3)具体的に死に直面した人の生き方をもとに最後の貴重な時間 の過ごし方を考える。 
(4)以上の学習から自他の命の尊さに気づかせる。
 
◆資料

種村準備
A 重い肝臓の病気で弟を亡くした子の手紙(MM死を学ぶ子ども たPART2 4回参照)
B (故)黒田康子さんの最後の生きざまを描いたビデオや遺した 絵本

蔵満準備
C いくつかのホスピス関係のHP 
    
◆授業の流れ
○6年4組の命に関する学習のなかから
 ☆種村と「死の学習」
 ☆吉松由美子さんと「エイズと闘った吉松満秀さんの学習」

◆事前にすること
○子どもから種村への待ってますメール
○子どもたちのエイズ学習の感想を郵送
○種村からのあいさつメール
○前回の学習の簡単な復習

◆授業プラン◆

5時間目
蔵満
01 ホスピス紹介のホームページの資料をもとにホスピスと病院 の違いを児童に考えさせる。
 【教材】
   ホスピスのホームページの写真
発問「病院とホスピスの違いをホームページの写真や文章をもとに発見してみましょう」

種村
02 死を前にした人の生き方について事実をもとに語る
 【教材】
   生体肝移植を受けて亡くなった男の子の姉の手紙   
   男の子が亡くなったのは一般の病院、お坊さんの話にでてきたがんのお父さんが亡くなったのはホスピスであることを説明 
        
03 ブックトーク 「ホスピスってどんなところ?」
   ホスピスってがんの患者やその周りの人にどんな役割をもっているのでしょう。考えるヒントになる本を紹介します。

『ぼくのいのち』(細谷亮太 岩崎書店)の男の子は、ある日小さいころの写真を見つけます。なぜか頭には髪の毛がなくつるつる。
お母さんは、小児科のお医者さんにわけを聞いてごらんと言います。
この子は小さいころ小児がんだったのです。あのころ、いっしょに入院していた友だちの半分はもう会えないのです。

『チャーリーブラウンなぜなんだい』(シュルツ 岩崎書店)は、おなじみスヌーピーの本の作者が小児がんの子どものために書いた本です。つらい治療に耐えて、元気になって学校へ行っても、髪の毛がないという理由でいじめられる女の子。チャーリーブラウンは
その子のために、どうしたでしょうね。

いまがんになっても半分ぐらいの人は治ると言われています。でもどうしても治すことのできないがんもあります。

『ゆたかな命のために』(甲斐裕美 偕成社)は、治すことが難しいがんの患者が入院しているホスピスでボランティアをしている著者が書いた本です。最期の日々をホスピスでゆたかに過ごした人がたくさん登場します。

『おばあちゃんといつもいっしょ』(池見宏子 岩崎書店)は、おばあちゃんを家族みんなで世話をしていた人が書いた本です。死を間近にした人を家で看護するのを在宅ホスピスといいます。若いころ、家族のために立ち働いてくれたおばあちゃんは寝たきりになっ
てしまいました。でも、おばあちゃんがそこにいてくれるだけで、みんなほっとできるのです。

『ポケットのなかのプレゼント』(柳沢恵美 ラ・テール出版)はがんのために死が間近いことを知っていたお母さんが、書いた絵本です。子どもがまだ小さかったので、この子たちが大きくなるまでにプレゼントしたいことを絵本にしました。いったいなんだったでしょうね。

大事な人を亡くして悲しいのは人間だけではありません。
『いつでもあえる』(菊田まりこ 学研)は、大好きだったみきちゃんが死んでしまって、悲しみにくれていた犬が主人公です。犬はふと目をつむると、みきちゃんの声が聞こえてくることに気がつきます。

6時間目
種村    
04 死を前にした人の生き方をホスピスの話とともに語る。鹿児島のホスピスについてもふれる
 【教材】
   黒田康子さんのビデオ
   亡くなる1ヶ月前、ホスピスに入院しながら、病院のクリスマス会のために絵本の絵を描いた黒田さんを写したビデオ。当時描いて、亡くなったあと出版された絵本『天にかかる石橋』  『魔法のドロップ』も準備

『わすれられないおくりもの』(おはなしで紹介)「死ぬことを少しも恐れていなかった」アナグマの生き方は、ビデオで紹介した
「100%生きたから死ぬのは怖くない」と話していた黒田さんの最期の姿に重なる。アナグマの姿は森の仲間の心に 思い出として残っている。笑顔で逝った黒田さんは友人の心に生きている。

05 子どもたちの質問に答える       
      
蔵満
06 授業の感想を書かせる

◆◆◆授業を終えて◆◆◆

 こんな流れでやりました。最初の弟を亡くした子の手紙は、かなりショックだったようです。ブックトークで関心の高かったのは、『ゆたかな命のために』に出てくる北村さんのCGで描いた絵でした。死を目前にした方が、こんなに見事な絵を残されたことに感嘆したようです。

◇子どもたちの感想

◆初めて「ホスピス」のことを知りました。ほんの少しだけ聞いたとき、死ぬことを待つなんて・・・とショックでした。少しでも生きられる可能性を信じて治療したほうがいいのに、と思ったからです。でもよくよく聞いてみるとホスピスはとてもすばらしいところだなあと思いなおしました。
◆ホスピスは畳があったりして、家族が普通に過ごせるところだと知りました。死を早めたり遅くもしたりしない自由に暮らせるところだということも知りました。
◆ホスピスはがんを治すというより、心をなごますところだと分かりました。日本にはあまりホスピスがないけどどうしてかなと思いました。もっとたくさんあれば、がんになった人が残りの人生を自分らしく楽しく生きられるんじゃあないかなあと思います。
◆ビデオで見た黒田さんは楽しそうでした。私もホスピスに行ってみたいです。
◆いままでがんにかかった人は苦しみながら死ぬのかなと思っていましたが、ぜんぜん違いました。がんはつらいけど、つらいなりに楽しみやいろんなことがあるなあと思いました。
◆ホームページで見たホスピスはとてもきれいで、マンションのようでした。私は末期がんの人が日常のように豊かに暮らせるシステムがあったことにびっくりしました。
◆私は女の子の手紙を聞いているうちに涙が出そうでした。世の中にはこんな悲しいことがあるんですね。
◆みんな「生きる」というただひとつの目標に向かって頑張っています。生きるということは簡単そうで難しいことでもあります。
◆「わすれられないおくりもの」の話を聞いて、おじいちゃんのことを思い出しました。おじいちゃんは私が幼稚園のころ、箸の持ち方を教えてくれました。私が5歳のとき、がんで亡くなったおじいちゃんとのいちばんの思い出です。おじいちゃんはいまでも、これからもずっと心の中で生きていると思います。
◆私もいつか死ぬときがきたら、黒田さんのように「100%生きた」と言えるようになりたい。
◆今日の「いのちの授業」は心にきざまれたので、ずっと忘れないと思います。

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