連載 「死」を学ぶ子どもたちーPARTU 第8回

    いのちのブックトーク(中学生対象)
                   
 2月末に中学2年生とその保護者400名ほどを対象に、ブックトークによる「いのちの授業」をしました。絵本はパソコンにとりこんで、プロジェクターで投影してみました。
 相田みつをさんの「いのちのバトン 自分の出番」という詩、知ってますか? この詩にあるように、みなさんは母親の胎内にいるとき、いのちのバトンをもらってきたんです。それがとってもよ
く分かる本があります。
 『せいめいのれきし』(岩波書店)がそうです。この絵本は、地球が太陽系宇宙のなかに誕生した45億年前から、今までのお話を演劇の手法で描いてあります。地球も最初は、太陽と同じマグマのかたまりだったのです。長い間に雨が降り、海ができ、やがて単細胞の小さな生き物が生まれ、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類が出現し、人間が登場するのです。ところが、人間の赤ちゃんは、母親の胎内で、その地球上に繰り広げられた生命の歴史を繰り返すと言われて
います。それをわかりやすく書いた本が『驚異の小宇宙 人体T 生命誕生』(NHK出版)です。受精から誕生までをカメラがとらえています。受精卵を直径7センチの野球ボールの大きさにたとえると、生まれるときの赤ちゃんはその2,000倍、東京ドームの大きさだそうです。

 私はこの胎内の赤ちゃんのたどってきた経過を部分的にですが、また体験しました。
 実は、6年前胃がんで胃を全部摘出する手術を受けたのです。胃をとったら、どうやって食事するのかって、疑問に思う人もいるでしょうね。私もそうでした。主治医は「大丈夫、胃の変わりに小腸を食道につないである。胎内にいるとき、消化器は1本の管だったわけだから、大丈夫なんだ」と説明されました。先日、その手術直後に撮影したレントゲン写真を入手しました。OHPで移してみますね。ほら、この白くふくらんでいるのが、私の胃の代わりにつないである小腸です。人間の体ってうまくできているって思いませんか?
 手術後は、まさに赤ちゃんでした。離乳食みたいな食事しか食べられませんでしたから。
 しばらくして「あなたの5年生きられる確立は20%」と宣告されました。みなさんはやがて高校を受験します。希望する高校に合格できる確率が20%しかないと言われたら、どうしますか?あきらめて他の高校を受けますか?それとも頑張ってみようって思いますか?
私はとてもだめだって思いました。それでもがんという病気は、すぐに死ぬわけじゃあない。その日までをどう生きるか考えました。教えてくれる人はいないので、ヒントをもらうために図書館へ行きました。

 そのころ、出会ったのが『龍平の現在』(三省堂)です。川田龍平くんのこと、知ってますか?龍平くんは、最近有名になった『五体不満足』(講談社)の乙武洋匡くんと同じ年の大学生です。生まれつき血友病で、その治療に使っていた血液製剤のためにHIVに感染していたのです。みなさんと同じ中学生のころは「どうせ俺はエイズになって死ぬんだ」と自暴自棄になっていたそうです。それでも19歳で友だちに感染のことを打ち明けたのです。ところが友だちは「同情しないからな」「昨日までのおまえと変わらないからな」と言ってくれたそうです。

 乙武くんの本にも「障害は不便です。しかし不幸ではありません」とあります。同情はいりませんということですね。
 私は、そのときまで同情されるのが嫌で、がんであることを友人に知らせていませんでした。龍平くんの本に出会って、友人たちを信頼していなかったことに気がつきました。それで『知りたがりやのガン患者』(農文協)の本を書き、出版しました。「がんになることや、死を覚悟して生きることは決してかわいそうなことではない、だから本当のことを教えてほしい」とのメッセージを込めたつもりでした。
 今の日本で、がんになった人本人に本当のことを伝えることがどれくらい行われていると思いますか。私ががんになったころは、まだ20%ぐらいでした。今はもう少し増えているとは思います
 が、それでも生きる時間が限られている進行がんの患者には、なかなか告げられないケースが多いようです。それは、死を語ることがタブーになっているからです。死は恐ろしいもの、分からないものと思われているからです。

 ところで、みなさんは死んだ後、どうなると思いますか?アンケートでは36%の人が「天国や地獄などの死後の世界はある」と思う、と回答していました。 48%の人は、「死後なにかに生まれ変われる」と答えています。
 本の中にも、死後の世界を信じているのはたくさんあります。たとえば、森絵都さんの『カラフル』(理論社)。これは、死んでしまった中学生の魂が主人公です。死んであの世に行った魂が抽選に当たって、この世に戻って再挑戦が許されるというストーリーです。
その結果、どうなったか?それは読んでからのお楽しみ!森絵都さんの『リズム』『ゴールドフィッシュ』も中学生が主人公です。
きっとみなさんだったら共感するところ、多いと思います。読んでみてください。
 もうひとつ、絵本『マローンおばさん』(こぐま社)は、森の中で一人暮らしている貧しいおばあさんの話です。自分の食べ物にも事欠いているのに、次々にやってくる動物を「おまえの居場所ぐらいここにはあるさ」と受け入れます。そのため亡くなったあと、天国に行きます。

 人は、死んだあとどうなるか分からないから、こういう話を次々に創り出したのでしょうね。これだけ科学が発達した社会でも、死後の世界については、確かめる術がありません。一人ひとりが、それぞれの考え方をもつしかないのです。私自身は特別の信仰をもってないので、死後の世界を信じていません。死後の生まれ変わりもあるはずがないと思っています。ただ、現代の医学は、死んだ後も生き残る方法を生み出しました。臓器移植です。『ASAKO〜朝子命のかけはしとなって』(ポプラ社)は、アメリカ留学中に交通事故にあい脳死になり、臓器提供をした朝子さんのことを書いた本です。朝子さんは、6人のアメリカ人の体に生きているのです。

 みなさんは、どうせ死ぬんだったら、生まれてきた意味はあるのかな、と考えたことはありませんか?『葉っぱのフレディ』の主人公、フレディは春に生まれ、寒くなると散っていく葉っぱです。こんな一生にどんな意味があるのか、と悩みます。親友のダニエルは、散るってことは、葉っぱの役割を終えて変化していくことだというのです。変わらないものはないのだ、とも。私の考えも、これとほぼ同じです。地面に落ちて、葉っぱの命は終わりになるかもしれませんが、葉っぱは土に溶け込んで、新しい命を生み出します。命はリレーされていくのです。

 ただ、人間は命をリレーするだけでなく、記憶力をもっているから亡くなった人を心の中に生かしておくことはできます。絵本『わすれられないおくりもの』(評論社)は、そのことを伝えてくれま
す。私の友人の黒田康子さんは『天にかかる石橋』『魔法のドロップ』(石風社)の2冊の絵本を描いて、「私は100%生きた」の言葉を遺して亡くなりました。このうち『魔法のドロップ』の方は、
ダウン症で初めて大学を卒業して話題になっている岩元綾さんが、最近英訳して『MAJIC CANDY DROP』(石風社)のタイトルで出版されました。黒田さんの絵本を見ると、いつも彼女
の笑顔を思い出します。黒田さんは、私の心にまだ生きていると確信しています。

 「死」は生きてるものに、いつかは、必ずおとずれるものです。でも、周りの人に納得できない「死」もあります。なかでもつらいのは、いじめなどによる自殺です。『わたしのいもうと』(偕成社)
は、実際にあった話です。いじめにあった妹が、生きる気力を無くして死んでしまう話で、たいへんつらい本です。周りの人は、いじめを知らなかったのでしょうか。しらんぷりを決めこんでいたのでしょうか。
 『しらんぷり』『14歳とタウタウさん』には、いじめを考えるヒントがあります。分厚いですが、絵本ですので、読んでみてください。

 みなさんのアンケートにも「自殺する人の気持ちも分かる」と応えた人が37%、「自分もいつか自殺したいと思うかもしれない」と応えた人が20%いました。もし、死にたいと思ったら、障害や病気をかかえながら懸命に生きている乙武くん、龍平くん、綾さんのことを思いおこしてください。
 最後に、工藤直子さんの詩「あいたくて」を紹介します。みなさんも、多くの人に会って、なにかを手渡すために生まれてきているはずです。生きていくということは、さまざまな出会いの積み重ね
です。いろんな人や本に出会い、あなた自身の100%の人生を目指してください。


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