連載 「死」を学ぶ子どもたちーPARTU 第4回

                

 親がガンなどの病に侵されたとき、その事実をどう子どもに伝えるか、たいへん難しい問題です。私が進行性胃がんになったとき、息子は大学生と高校生でした。私の病気のことは、夫から伝えました。もっと小さい子どもだったらどうしただろうなと思います。
 
 私は10月はじめ奄美大島に行きました。土曜日に中学校で「いのちの授業」をやり、日曜日に町立図書館で小学生の親子対象の話をしました。図書館での話を終えたあと、小学生の男の子の手をひいたお母さんが話しかけてこられました。

  「実は、私は2ケ月まえにガンの手術を受けたばかりです。こちら の病院で検査を受けたとき、ガンと分かっていたようですが、私 には告知されていませんでした。もっと詳しい検査を東京の病院 で受けてみたらと周りに勧められ、上京しました。空港で妹から 1冊の本を渡されました。『知りたがりやのガン患者』でした。
 夢中で読みました。不安で胸が押しつぶされそうだったのに、こ の本のおかげで、元気づけられました。たとえ、ガンだとしても 正面から受け止められるという気もちになりました。検査を受け るときガンであってもきちんと伝えてほしいとお願いしました。
 そのまま、その病院で手術を受けました。子どもにはなかなか言 えなかったのですが、昨日の『いのちの授業』を聞いて、中学校 の子には、『お母さんもガンだけど、種村先生みたいに頑張るか らね』と話しました。きょうは、小学校のこの子にも話を聞かせ たくてやってきました。あの本を書いた人にこんなに早く会える とは思いませんでした。ありがとうございました。」
 
 私には、涙ながらに話されるその方の手を握りしめることしかできませんでした。でもきっと家族みんなに応援されて、これからもガンと向き合っていかれることでしょう。
 10月末には大阪に出かけました。子どもたちと一緒に授業を聞いてくださったお母さんの一人からメールが届きました。その方は7年前に胃がんで全摘手術を受けていらっしゃるとか。子どもさんが幼稚園だったそうです。子どもさんもそのことを知っています。
一般に、小学生の子に親がガンである事実を知らせるのは「かわいそう」と思われています。でも、私は知らせないことの方がかわいそうだと思います。
 「なんでもないんだ。もうじき元気になるから」などと説明されていて、もし別れを迎えることになったら、遺された子どもは、それこそショックで立ち直れなくなります。もちろん、知らせること
で一時的にはたいへんな衝撃を受けます。死による別れへの恐れに苦しむでしょう。それでも、子どもはきちんと受けとめる力をもっています。

 いのちの授業に出かけた学校から届く感想に、ときたま「ぼくのお母さんも、ガンで亡くなりました。お母さんは、100%生きたと思います。」というようなのが含まれています。小さい子を遺して逝くつらさ、想像するだけでも胸が張り裂けそうです。でも、わが子にこういう風に思い出してもらえるような生き方ができたらと思います。

 先日 1冊の絵本を見つけました。『ポケットのなかのプレゼント』(ラ・テール出版局)です。ガンに侵され、9歳と7歳の子どもを遺して36歳で逝った母親がわが子に書き残した絵本です。マイナーな出版社なので、書店には並んでいないと思います。図書館にリクエストしてお読みください。


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