ザイム真理教の誕生・
森永卓郎著、
まえがき、
・第5章 信者の人権と生活を破壊する・ザイム真理教の脅し・122・
・ザイム真理教の脅し・
・第2章で述べたように、宗教とカルト教団の差は、信者の人権を侵害するようなやり方で金を集めるかどうかだ。宗教もウソをつくが、そのウソはあくまでも現世での信者に希望を与え、希望を持って生きられるようにするための「嘘も方便」なのだ。
・ところがザイム真理教は、財政破綻をすれば、ハイパーインフレや国債や為替の暴落が起きるぞと脅したうえで、必要のない増税を繰り返して、国民生活を破壊してしまうのだ。
・まず全体の動向からみておこう。図表8は、国民負担率の推移を見たものだ。国民負損率というのは、税金と社会保障負担が国民所得全体に占める割合のことで、国全体として所得の何%が税金や社会保険料などで持っていかれているのかという数字だ。
・2010年度の国民負担率は、37・2%だった。それがどんどん上がっていって、2022年度には45・5%と、ほぼ5割に達している。働いても半分が税金と社会保険料でもっていかれる計算だ。
・江戸時代は、享保年間(1716~1736年)までは四公民といって、収穫したコメの4割をお上に納めていた。つまり農民が手許に残せるコメは収穫量の6割だったのだ。
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・農民の取り分のなかには、種もみに回したり、農機具を購入するための分が含まれていて、6割でもがコメを十分に食べられる水準ではなかった。
・ところが、享保年間以降幕府の財政が悪化すると、五公5民に改められた。収穫米の5割を年貢として上納しなければならなくなったのだ。
・さすがにそれでは生活ができない農民は、全国各地で年貢の減免を要求して立ち上がる「一揆」に打って出た。また当に引っ越しの権利がなかったにもかかわらず、屋敷や農地を放棄して逃げ出す「逃散」が行なわれた。
・そうした歴史を受けて、2023年2月24日に国民負担率の数字が発表された直後、ネットの世界では「五公五民」がトレンド入りした。
・また、そうした状況を受けて明石市の房穂市長が「国民は諸外国並みにすでに十分するほど負担をしている。にもかかわらず、子育て支援も介護負担の軽減も一向に進まない。私たちのお金は、一体どこに消えているのだろう。江戸時代よりひどい時代に、私たちは生きているのかもしれない」とツイートした。
・さらに翌日には、国民負担率の年度ごとの数字を掲げ、「子ども時代(1960年代、70年代)は20%台で、今の半分程度。平成に入ってからも30%台だったのに、いつのまにか50%近くにまでなってしまった。まともな政治家を選んでこなかったツケが、今になって回ってきたということだろうか・・・」とツイートした。
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・これに共感した実業家のひろゆき氏は「60歳以上の人達は、稼いだ額の8割を自分のお金として使えて、国立大学の学費も月2万円とかの時代。今の若者たちは稼いだ額の半分しか使えなくて、大学の学費は月10万円。この差を知らずに高齢者が「若者たちは元気が 「ない」とか「若者の車離れ」とか言ってる状況」とツイート。さらに「日本は搾取される若者たちと払った以上の額の年金を受け取る高齢者に分断されています」などと私見をつづった。まるで高齢者が若者から搾取をしていると言わんばかりのツイートだ。
・しかし、国民負担率の上昇は、本当に高齢者の責任なのか。
・国民負担率は、10年の37・2%から22年に47・5%へと10・3ポイント上がっている。そのうち租税負担が7・2ポイント、社会保険負担が3・0ポイントの上昇となっている。つまり、国民の大部分は、税が上昇したことの結果だ。
・なぜ租税負担率が上昇したのか。
・最大の理由は、2014年と2019年の2回にわたって消費税率が引き上げられ、消費率が引き上げられ、消費税が5%から10%に倍増したからだ。この消費税率引き上げがそもそも必要なものだったのかは、章を改めて検討していくが、ただ一つすでに明確になっていることは、大増税によって国民生活が追い詰められてしまったという事実だ。
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・もともと徳川家康は「百姓どもを、死なぬように生きぬように合点いたし収納申し付けるよう」と命じていたと伝えられる。しかし、幕府は農民が死んでしまうほど年貢米の比率を引き上げたのだ。
・私は小学6年生のときに教室で見せられたテレビ映像がいまでも忘れられない。年貢を少しでも減してほしいと懇願する農民を袖にしたお代官さまがポツリとこう言ったのだ。
・「百姓と菜種は絞れば絞るほど取れる」
・日本は重税国家
・次に国民負担率の国際比較(図表9)を見よう。海外の国民負担率は、少し古いデータしか公表されていないのだが、2020年のデータ(日本は2020年度)で見ると、国民負担率はアメリカが飛び抜けて低く、日本はイギリスよりもやや高く、大陸欧州諸国は日本よりもさらに高くなっている。
・しかし、大陸欧州との比較には注意が必要だ。大陸欧州は、総じて社会保障や教育のサービスレベルが日本より格段に高いからだ。
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・たとえば、スウェーデンは自国民であれば、私立大学でも公立大学でも学費は無料だ。
・ドイツも公立大学はフランス政府が大部分の学費を負担してくれる仕組みになっている。イギリスは地域ごとに大学の年間授業料が異なっており、イングランドでは上限 9250ポンド(約150万円)と高額だが、スコットランドの住民は城内の大学の授業料が無料となっている。
・ちなみに2016年のOECD加盟国で、GDPに占める小学校から大学までの教育機に対する公的支出の割合は、日本は2・9%で、比較可能な3カ国中で最下位だった。
・また、厚生労働省年金局が2018年7月30日に発表した「諸外国の年金制度の動向について」という資料によると、公的年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する公的年金の割合)は、日本が34・6%であるのに対して、イギリス22・1%、ドイツ38・2%、アメリカ38・3%、スウェーデン36・6%、フランス60・5%となっている。ス ウェーデンは、公的年金のほかに義務的に加入する私的年金があり、それを加えた所得代替率 55・8%となっている。イギリスも義務ではないが、多くの人が加入する公的年金給付を超える私的年金がある。
・このように日本は、社会保障や公的サービスの給付水準が低いのに、税金や社会保障負担が大きい、「重税国家」になっているのだ。
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・日本が重税国家に変貌するまで
・日本はどのようにして重税国家に変貌してきたのか。
・消費税導入前の1988年度と2022年度にかけての負担増のなかで、主要なものを整理したのが次ページの図表10だ。
・もっとも負担増が大きいのは、もちろん消費税増税だ。
・消費税収は、2022年度予算で21兆5730億円だが、これは国税分だけなので、地方税を入れると、27兆6577億円が国民に降りかかってきたことになる。
・次に大きいのは、年金保険料率の引き上げで、たとえば厚生年金の保険料率は12.4%から18・3%へと7・9ポイントも引き上げられている。それだけ負担を増やしたのに、厚生年金の支給開始年齢は60歳から65歳へと繰り延べられた。一方、国民年金の保険料は、月額7700円から1万6590円と2倍以上に上がっている。
・そのほかにも負担増は目白押しだ。東日本大震災の復興を支えるための復興特別所得税は、2013年から所得税に2・1%を上乗せする形で設けられていて、25年間続けられことになっていることになっているが、防衛増税との関係もあり、延長される可能性が高い。
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・一方、控除を縮小するという形での所得税増税も行なわれた。
・たとえば、サラリーマンの経費相当額を控除する目的で設けられている給与所得控除は、1988年当時は、給与収入に応じて無制限に増えていた。しかし、2013年分から、給与収入1500万円を超える場合の給与所得控除に245万円の上限が設けられた。また、2017年分からは、給与所得控除の上限が給与収入1000万円超で 220万円となり、さらに2020年分からは、給与所得控除の金額が、給与収入の金額が、給与収入の金額にかかわらず、一律10万円引き下げられるとともに、給与収入850万円を超える場合の上限が195万円とされることになった。
・こうして本来経費として控除されるはずの金額が所得に振り替えられ、増税されていったのだ。
・さらに、配偶者控除は、2018年から、夫婦どちらかの年収が1120万円を超えると減額になり、1220万円を超えるとゼロになるようになった。専業主婦の配偶者控除をさせていた配偶者特別控除は2004年に廃止された。そして、高齢者に適用されていた50万円の年者控除は2006年に廃止された。
・さらに、人によってはとてつもない増税になったのが2015年の相続税増税だった。それまでに5000万円プラス相続人1人当たり1000万円の基礎控除があった。
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・たとえば、配偶者と子ども2人で相続をする場合、8000万円までは相続税がかからないし、申告の必要もなかった。庶民には、相続税は縁のない税金だった。それが3000万円プラス相続人1人当たり600万円に減額されたため、配偶者と子ども2人で相続をする場合の基礎控除は4800万円に減額された。つまり、基礎控除の額が4割減となったのだ。このため、大都市に不動産を持つ被相続人の場合、相続税の対象となる人が激増したのだ。
・医療の負担も、サラリーマンの窓口負担が2割から3割に増額され、後期高齢者医療保もされるようになった。
・また、2022年10月からは、中所得の後期高齢者の窓口負担が倍増された。単身者の場合、年収200万円以上383万円未満の医療費窓口負担は、それまで1割負担だったが、それを2割負担に変えたのだ。
・それまでの制度では、後期高齢者の窓口負担は原則1割で、現役世代並み所得の人(単身世帯で年収383万円以上)のみが3割負担になっているのだが、新たに「中所得層」区分を設けて、その窓口負担を倍増させたのだ。
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・この中所得層の200万円というラインはかなり微妙だ。現在の厚生年金受給者の平均年金月額は14万5666円だから、年額は175万円だ。年金が平均より少し高い人や動労収入がある人は、対象になる可能性が高い。実際、政府の試算でも窓口負担倍増となるのは、75歳以上の2割、370万人と見込まれた。
・この窓口負担増は、2021年6月に成立した医療制度改革関連法で決まっていたのだが、実施時期については2022年10月から2023年3月の間と、幅を持たせていた。実際には、そのなかでもっとも早い時期に負担増が実施されたのだ。
・あまり長く書いても仕方がないので、残りは表をご覧いただくことにして、負担増が庶民、特に高齢者に集中して行なわれていることには注意が必要だろう。「同性愛者には生産性がない」と言って世間から集中砲火を浴びた政治家がいたが、政府のやっていること 高齢者には生産性がない」と言っているのと同じなのだ。
・なぜ日本は30年間成長できなかったのか
・社会政策の犠牲者になったのは、高齢者だけでなく、一般の勤労者世帯も同じだ。図表11は、総務省「家計調査」を用いて、消費税導入前と2021年度の家計の比較を行なったものだ。
・まず、勤労者世帯の家計を3年前と比較すると、世帯主収入は474万円から533万円へと12%増えている。
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・ところが、所得税と住民税を合わせた直接税は41万円増え、年金保険料や 健康保険料などの社会保険料は41万円、111・3%も増えている。税金と社会保険料を合計した社会保険料負担は45万円、50・1%増と、収入を圧倒する伸びを示している。その結果、手取収入は14万円、3・8%しか増えていない。
・念のために付け加えておくと、この表で使ってい手取り収入は、正確ではない。
・なぜなら、税金と社会保険料には、世帯主以外の働き手が納めた分も含まれているからだ。ただ、世帯主以外が稼いでいる勤労収入は家計全体の1~2割であり、その収入は所得税や社会保険料のかからない水準のものが大部分であるため、無視しても大きな間違いにはならないだろう。
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・さて、税金と社会保険料だけを差し引いた世帯主収入は、33年間で384万円から398万円へと3・8%増加している。しかし、注意しておかなければならないことは、この期間で消費税率が0%から10%(食料品は8%) に引き上げられているということだ。この間接税の負担増は、32万円に及んでいる。つまり年間で、税金は38万円、社会保険料は41万円も増えたことになるのだ。
・消費税増税分も含めた税社会保険料を差し引いた世帯主収入の手取りは、384万円か3 66万円、18万円も減少している。
・なぜ、日本経済がこの30年間、ほとんど成長しなかったのかという疑問がしばしば提起さている。
・日本企業がイノベーションを怠ったからだとか、終身雇用・年功序列処遇が時代に合わなくなったからだとか、企業が雇用を守るために賃金を抑え込んだからだなどといろいろが出されているが、この表を見れば、答えは明らかだろう。
・日本経済が成長できなくなった最大の理由は「急激な増税と社会保険料アップで手取り人が減ってしまったから」だ。
・使えるお金が減れば、消費が落ちる。消費が落ちれば、企業の売上げが減る。そのため企業は人件費を削減せざるを得なくなる・・・という悪循環が続いたのだ。
・ザイム真理教は、国民生活どころか、日本経済まで破壊してしまったのだ。
・136頁、五章終わり、9/22/2023 10:26:54 AM・
・日本は重税国家・126
・日本が重税国家に変貌するまで・129
・なぜ日本は30年間成長できなかったのか・133
2023年9月22日 13:45:10