体力の正体は筋肉.pdf へのリンク・体力の正体・下半身と体幹を鍛えよ・
2024年1月23日 18:39:21


本物の森を奄美大島の自然を大切に:  ・足底筋膜炎専門チャンネル・EDはただの始まり? “勃起不全を直せば病気知らず” と言えるワケ米健康科学カレッジ最高学位を取得した権威が語る、勃起力と病気の関係,ハナシュクシャと言って、・再生エネルギー大国日本への挑戦・ (synapse-blog.jp)2024/04/11 7:26







体力の正体は筋肉・・

・はじめに

・これまでは疲れも知らず、元気いっぱい働いてきたけれど、ある程度の年齢に達して、このところ何となく体力の衰えを感じるような気がするという人々が多くいます。

・最近はまた、「子どもの体力が低下した」「あの選手は体力がない」などと、体力という言葉を日常よく耳にするようになりました。

・体力は、「日常生活を無理なく行うことができる能力」と定義されることがありますが、なんとなく分かったようで、やはりよく分かりません。時代とともに求められる体力は変化してきており、今日ではしばしば、健康と結びつけて「健康体力」のように使われることも多くなっています。

・わが国の平均寿命は世界のトップクラスで、それには保健医療システムの向上が大いに貢献してきましたが、身体的に自立した生活を送ることができる健康寿命はそれほど長くなっていません。

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・そこで、いかに働き盛りの年齢層が健康体力を保ちながら生活し、高齢になっても元気に自立して生きていくだけの体力を保てるかが大きな健康課題となっていますが、その根底には筋肉の衰え(筋肉量の減少と筋力の低下)があります。

・私は長年、加齢にともなう体力低下の原因を、健康の保持増進、さまざまな生活習慣病の予防との関連で科学的に解明しようと努めてきました。

・そのなかでも特に、日常の身体活動、運動、スポーツにおいて主として使われる筋肉 (骨格筋)に着目して、体力とはなにかを見つめ、体力低下の予防、体力向上の意義を明らかにするのが研究の主眼でした。

・筋肉は、私たちの体のなかではもっとも大きな器官であり、成人の男性で体重の約40%、女性で約30%を占めています。

・しかしながら、スポーツ選手を除けば、脳や心臓、肝臓、腎臓などのような臓器・器官 に比べて研究対象としての筋肉の地位は相対的に低く、日常生活においてもその存在や役割に対する関心が薄かったように思われます。

12頁・1/24/2024 7:27:37 AM

・そこで本書において、あらためて筋肉の価値を再評価し、体力と筋肉を関連づけて考えてみたいと思い立ったわけです。

・近年の交通や通信システムの高度化が、座りすぎの生活を含む著しい運動不足(身体活動量の減少)を招き、食生活の欧米化とあいまって、健康体力は著しく低下しています。

・肥満が世界的に蔓延し、筋肉の病気ともいえる糖尿病などの生活習慣病が広がるなど、筋肉の衰えが生活の質(QOL: Quality of Life) 低下の大きな要因となっており、健康寿命の延伸を妨げています。

現代社会において、苦しくつらい肉体労働からようやく解放され、楽に動く(移動する)ことができるようになったにもかかわらず、なぜわざわざ運動をしなければならないのかと不思議に思っている人もいるでしょう。学校の体育の授業で無理やり運動させられて、運動は楽しくないと思っている人もいるかもしれません。

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・そのような人が、「健康のために運動をしましょう」「運動をして増え続ける医療費を削減しましょう」などと言われても、なかなか運動をする気にはなりません。

・実際、健康のために運動やスポーツを日常的に行っている人は、健康により関心が高い高齢者を除けばそれほど増えていませんし、「仕事が忙しくて運動をする時間がない」「運動をする施設が近くにない」などと言い訳をしながら、運動とは無縁の生活をしている人がとても多いという現実があります。

・私は、体を動かすことは「体苦」であってはならず、楽しく動かすことができる「動楽」でなければならないと考えています。多くの人々に愛好されているミュージックが 「音楽」と訳されているように、日常の運動を含めた広い意味でのスポーツが「動楽」として日常生活に組み込まれていくことが理想です。

・一度しかない人生をいきいきと送るために、体を動かすことそれ自体を楽しみ、自分自身の体力を適正レベルに保ち、健康を保持することにより健康長寿を実現することを、本 書を通じて強く願う次第です。

14頁・1/24/2024 7:51:45 AM


体力の正体は筋肉・1/23/2024 12:41:48 PM

・目次

・はじめに

・第1章・だれにも避けられない体力の衰え・14

・ふと気づく体力の衰え・

・体力が衰えればネガティブになる・17

・そもそも「体力」ってなに?19

・体力を支えるのは筋力と全身持久力・21

・体力をつけるのはなんのため?23

・ポジティブに生き抜く指針・26

・アクティブ・エイジング」という新たな価値観・28

・ユニークな調査研究が進行中・30

・第2章・体の動くところに筋肉あり・34

・体が動くのは骨格筋のおかげ・

・なぜ体は硬くなってしまうのか・36

・筋肉が疲れるのは乳酸が原因ではない・37

・筋肉痛はなぜ起こるのか?39

・肉離れはアスリートだけに起こるケガではない・41・・

・骨格筋は筋細胞の束でできている・42

・あなたの筋肉は短距離型、それとも長距離型?46

・骨格筋を動かすエネルギー通貨は在庫が少ない・47

・骨格筋の役割は体を動かすだけではない・49

・第3章・筋肉は使わないとすぐに衰える怠け者52

・筋量は全体重の40%にもなる・

・筋肉のピーク年齢は意外と早く訪れる・54

・肪量も筋力もピークを過ぎたら衰えるばかり・55

・筋肉は、怠け者、使わないとすぐに衰える・59

・上半身より下半身の筋量のほうが減りやすい!!62

・衰えるのは体幹の筋肉も例外ではない・64

・筋肉を使わないとなる病気「サルコペニア」・67

・この動き、できますか?(サルコペニアの診断法)69

・下半身の機能が衰える「サルコペニア肥満」・70

・運動機能が衰えた状態になる「ロコモティブシンドローム」・71

・骨格筋の働きと深い関係がある「メタボリックシンドローム」・72

・糖尿病も筋肉が関わる病気・74

・第4章・トレーニングは裏切らない・

・トレーニングはアスリートのためだけのものではない・

・日本人は世界一の座りすぎ・79

・座りすぎをどのように減らすか・80

・何歳になっても筋力は高められる・83

・トレーニングは途中で止めると効果なし・84

・トレーニングの効果は2~3ヵ月後にあらわれる・87

・大切なのはトレーニングの強さ・88

・トレーニングを長く続けるコツがある・90

・絶対にやってはいけないトレーニング・95

・第5章・下半身と体幹の筋肉をきたえなさい・99

・なぜ下半身や体幹の筋肉なのか・100

・あなたの体力は今どのくらい?100

・筋力チェック/全身持久力チェック101

・全身持久力を高めるのが有酸素運動、筋力を高めるのがレジスタンス運動・104

・どれか1つでもOK、自分の体力に合った方法を選ぶ・

・ローイング(ボート漕ぎ)運動は最強のトレーニング・107

・ローイングは生活習慣病の予防にもなる・109

・両脚が伸展・屈曲するやり方が効果的・110

・自宅でできるチューブを使ったローイング・112

・注目されているわずか4分間のトレーニング・117

・全身持久力を高めるウォーキング・120

・ウォーキングは安全に楽しむ・122

・腰から脚にかけての筋肉をきたえるスロージョギング・124

・全身の骨格筋がきたえられるスイミング・126

・スイミングを安全に楽しむには・128

・スイミングが苦手なら水中ウォーキング・131

・ストレートに効果が得られる椅子を使った筋トレ・133

・つかまりスクワット/太ももアップ/ひざプッシュ/

・ひざ関節のばし/かかとうしろ上げ/つま先上げ・かかと上げ・

・柔軟性を高めたいならストレッチング・

・第6章・筋肉にとっていい食事はなにか・149

・筋肉に必要な栄養素のおもな働き・

・筋肉をつくるのはたんぱく質・

・おわりに

・参考文献

・たんぱく質をとる量が減っている・

筋肉を動かすおもなエネルギー源は糖質・

・低強度の運動のエネルギー源として欠かせない脂質・

・筋肉に重要な栄養素の働きを助けるビタミン・

・体の機能を調節するミネラル・

・第六の栄養素として欠かせないのが水・

・栄養はやはりバランスよくとるしかない・

1日に「なにを」「どのくらい」食べたらいいか・

・不足しがちなビタミンやミネラルをとる食事のパターン・

・サプリメントに頼るのは限られたときだけ・

・食事と運動は必ずセットで・

イラストレーション/佐久間店

図版作成/MOTHER

1/23/2024 1:23:16 PM


・第1章 だれにも避けられない体力の衰え・14頁・

・ふと気づく体力の衰え・

・「どう、最近元気そうじゃない?

・「いやぁ、そんなことないよ。なんだかめっきり体力が衰えてきてね。

・「いやぁ、そんなことないよ。なんだかめっきり体力が衰えてきたみたいだ。ふときづいたら、ちょっと前まで簡単にできたことも、すごくしんどく感じるようになってきてね。やっぱりこれ、年のせいなのだろうね」

・もちろん個人差はありますが、40歳ごろからそこはかとなく衰えを感じはじめ、50歳の声を聞いたところで体力は一気に急降下。そういった人たちの間で、こんな会話がよくかわされているのを耳にします。

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・疲れやすくなった

・持久力がなくなった

・出かけるのが面倒くさくなった

・なにかをしようという意欲がわかない

・急ぎ足ができなくなった

・階段の上り下りがつらくなった

・重いものが持てなくなった

・すぐに息切れがする

・わずかな段差にもつまずいてしまう

・聞こえづらい・見づらい

・食が細くなった(食欲が低下した)

・夜中に何度もトイレに起きる

16頁・1/23/2024 1:28:00 PM


・熟睡ができない……………

・こういったことが徐々に目立つようになって、「ああ、体力が衰えたなぁ」と実感してしまうのでしょう。

・体力が衰えることの切実さは、体を使って勝負に挑むアスリートにとって現役引退を余儀なくされる最大の理由にもなっています。

・小兵ながら幕内優勝31回など数々の 記録を残し、国民栄誉賞を受賞した大横綱・千代の富士。19915月日の引退会見で「体力の限界」と言い切り、「気力もなくなり引退することになりました」と涙をこらえながら絞り出すように語った姿を、25年以上たった今でもはっきり記憶している人も多くいらっしゃるはずです。

・年を重ね、ケガなどをきっかけに自分の思い通りのトレーニングができなくなる。そうなれば体力が衰えてなかなか結果が出せず、まわりからも評価されなくなり、次第に気力も失せてしまう。大横綱といえども、こうした悪循環に陥り、心技体のバランスが崩れて引退につながるかたちとなりました。

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・また、メジャーリーグで数々の記録を達成し、2018年のシーズンは歳とメジャー最年長の野手となるシアトル・マリナーズのイチロー選手は、17日ぶりにスタメンに起用された試合後に、「やっぱ、体力がなくなっていますね」としみじみと語ったと報道されました(スポニチアネックス、2017525)

・「50歳まで現役を続けたい」と語るイチロー選手ですが、「ゲームの体力と違う。(体が)ふわふわしている」と珍しく弱音とも思える発言をするのを見ると、やはり、抗しきれない体力の衰えによって現役引退を決断せざるをえない日がいつか訪れることは間違いないようです。

・体力の衰えは、遅かれ早かれ、だれにでも必ず訪れるものなのです。

・体力が衰えればネガティブになる

・しかも、体力の衰えは、年齢を重ねる(加齢、エイジング: aging) にしたがって、ますます加速していきます。

・個人によってまちまちですが、ある程度の年齢になって体力が衰えて心身にさまざまな

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・変化が生じてしまうことを「老い」「老け」「老化」などといい、それが病気の症状として あらわれたものを「老年症候群」「廃用症候群」と呼んでいます。

・「老年症候群」は、健常に生活している高齢者、特に75歳以上のいわゆる後期高齢者の生 活機能や生活の質(QOL)を低下させて、健康寿命を短くし、要支援・要介護の状態を招いてしまう症候(障害)の総称です。

・具体的には、体力の衰え、転倒(骨折)、願尿、尿失禁、低栄養、聽力・視力の低下、 認知機能の低下、血や嚥下能力などの口腔機能の低下()、睡眠障害、うつ、閉じこもりなど、相互に関連し合う多項日の症状がこれにあたります(厚生労働省)

「廃用症候群」は「生活不活発病」という言い方もされます。年齢を重ねて身体の活動の量や質が低下し、生活が活発でなくなることで生じる症状を総称したものです。

・老年症候群が放置され、病気やケガの治療や療養のために長期間安静の状態が強いられ さらにリハビリのような、ベッドを離れて日常生活に復帰するための取り組みを怠ってしまうといった理由で器官や筋肉が使われないままでいると、その機能が低下する、失われ る、萎縮するなどの弊害が生じます。


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・具体的には、筋力の低下、筋肉や骨組織の萎縮、関節の拘縮(筋肉が持続的に収縮して きづらくなること)、心肺機能の低下、うつ、知的活動(意欲)の低下などで、特に高齢 にとっては寝たきりのおもな原因となります。

・そもそも「体力」ってなに??

・老年症候群の症状の1つとしても挙げられるのが「体力の衰え」です。ではその「体力」とはなんなのか、どういった意味で使われているのかを、少し考えみましょう。

・私が、厚生労働省の「運動所要量・運動指針の策定検討会」の委員として策定に加わった「健康づくりのための運動基準 2006~身体活動・運動・体力~報告書」では、体力 (physical fitness)とは、「身体活動を遂行する能力に関連する多面的な要素(潜在力)集合体」であると定義づけ、客観的・定量的に把握できる狭義の要素として、「全身持久力(全身持久性体力)筋力、バランス能力(平衡性体力)④)柔軟性(柔軟性体力】その他(敏しょう性体力など)」の5つで構成されるとしています。

20頁・1/23/2024 1:55:33 PM


・体力には、「行動体力 (fitness for performance( いわれるものと「防衛体力(fitness for protection)」いわれるものがあります。

・行動体力は、自ら外部へ働きかける(発動する)力、行動する力、体を動かす力のこと。防衛体力は、体の機能を正常に維持するため、病気やストレス、細菌の感染などの刺激に抵抗する力、寒暑などの外部の環境に適応する力のことを指します(上図)

・ただ、防衛体力は客観的に測定したり評価したりするのがとてもむずかしいので、一般的には、体力といえばこの行動体力のことです。端的に言えば、「体力とは、作業や運動といった身体活動に要求される潜在的な能力、身体的活動能力」

・ということができるでしょう。

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・体力は、物事に積極的に取り組もうという「気力」と、知性を磨き創造的に活動するために働かせる「知力」と一体となって、心身の発達や、健康でいきいきと豊かに暮らしていくのに欠かせない重要な源です。

・ですから、「体力をつける、体力を高める、体力を維持するように努める」ことがとても重要になってくるのです。

・体力を支えるのは筋力と全身持久力

・体力のうちで私がもっとも注目したいのが、「筋力」と「全身持久力」です。

・筋力は、筋肉(体を動かす寸骨格筋)が発揮する力のことで、それがどのくらいあるのかは、ほぼ筋肉(筋線維:muscle fiber) の断面積に比例します。

・全身持久力とは、「全身持久性体力」ともいい、全身を使った運動をどれだけ長く続けられるかの能力のこと。「スタミナ」「ねばり強さ」という言い方もできるでしょう。運動のために筋肉が長時間活動するには心臓の機能(循環)や肺の機能 (呼吸)も大きく関係していることから、全身持久力は「心肺持久力(有酸素性能力)」「心肺体力」とも呼ばれようになります。

1/23/2024 2:12:39 PM


 

・こうした理由によって、生活の質(QOL)が高まり、意欲的に行動することができる

・なぜ、筋力と全身持久力に注目するのか、それには3つの理由があります。

・第1の理由は、筋力と全身持久力が高いと、生活習慣病を発症するリスクが低くなり、その予防にもなるという点です。自分にマッチしたトレーニングをすれば、筋力と全身持久力は必ず高まります(トレーニングの方法は第5章で詳しくふれます)

・第2の理由は、体力テストを行えば定量的に測定ができて、現在の自分の筋力や全身持久力がどの程度なのかが客観的に評価できる点です。

・第3の理由は、筋力や全身持久力を高めれば、柔軟力やスピード力など体力のほかの要素にもいい影響がもたらされるという点です。

・こうした理由によって、生活の質(QOL)が高まり、意欲的に行動することが出来るようになります。

・今どきのよく使われている表現を真似れば、

・「体力の正体は、筋力と全身持久力にあり」

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・といっていいかもしれません。

・あなたの筋力と全身持久力がどのくらいあるかは、自分でもすぐにチェックできます。

100~104ページの方法で試してみましょう。

・もちろん、活動的に年を重ねる「アクティブ・エイジング」につなげるのに必要なのは、体力だけではありません。含まれる成分のバランスがいい血液、内壁に詰まりがなく弾力のある血管、正常でスムーズな血流を総合した「血液力」、骨密度の高い強い骨、軟骨のすり減りがなく動きがスムーズな関節を総合した「骨力」を高めることも、けっしておろそかにできません。

・体力をつけるのはなんのため?

・最近、「健康寿命」という言葉をよく耳にしませんか。

2000年にWHO(世界保健機関)が提唱したもので、「健康上の問題で日常生活が制限されることのない期間」という意味で使われています。

24頁・1/23/2024 2:22:29 PM


2013年時点での日本人男性の平均寿命は8021年、日本人女性の平均寿命は・8661年。同じ時点での健康寿命は、男性が7119年、女性が・7421年です(「平成27年高齢社会白書」内閣府、「健康日本21(第二次)厚生労働省)

・平均寿命と健康寿命との間には、男性は902年、女性は124年の開きがあります。

・男女どちらも10年ほどのこの開きは、WHOの定義を裏返して言えば、「健康上の問題で日常生活に制限が出でしまった健康でない期間」ということになります。

・この健康でない期間が長くなるほど要介護のリスクが高まり、精神的、肉体的な負担ばかりでなく、医療費や介護費といった経済的な負担もより大きくなってしまう懸念があります。

・超高齢社会においては、社会全体として平均寿命をただのばせばいいというのではなく、

・日常生活に支障がなく丈夫で長生き」という意味の健康寿命をのばして、平均寿命との「差をできるだけ短くすることが望まれています。

・しかしながら、自分が将来、いつどのようなケガをしたり、病気にかかったりしてから、どのくらいの期間を経て最期を迎えるのかはだれにも分かりません。

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・長野県は、「健康で長生きし、病気に苦しまずにコロリと死のう」という「ピンピンコロリ運動」の普及に力を入れていますが、そう願ったとしても、すべての人がかなえられるとは限りません。

(17007) ぴんぴん体操(基本動作編) - YouTube

・はっきりいえるのは、大半の人は年齢を重ねるにつれて体力が衰え(その状態を「虛弱」「フレイル: [railty」といいます)、なんらかの病気にかかり、いつかは必ず最期を迎えることはだれにも避けられない、それが事実だということです。

・そこで、私が少し気になっているのは、「健康寿命」という言い方です。

・若い人なら、健康診断でなんの異常も見つからなければ健康といえるでしょうが、40歳を過ぎたあたりから「要経過観察」の項目が少しずつ目立つようになり、やがては「再検在」「治療」にいたるといったように、異常がまったく見つからない中高齢者はごくごく稀ではないでしょうか。

・たとえば、高血圧症で降圧剤を飲み続けていたり、がんや糖尿病にかかっていたりする患者さんは「完全な健康状態にある」とはいえません。

・そうした病気を抱えながら、あるいは「亜健康」と呼ばれる、健康とも病気ともいえない体の不調と上手に付き合いながら、長期にわたって目に面をかけず、日常生活も制限されずに、可能な限り自立した、生活を活っている人はたくさんいます。

26頁・1/23/2024 3:31:12 PM


・そうした現実をまえれば、検査の数値を基準にして健康であるかどうかというより、むしろ自立した生活を送れているかどうかのほうが問われることで、その意味で健康寿命というより「自立寿命」と思ったほうが適切ではないかと思うのです。

自立寿命を、どれだけ長くのばせるか――

・そのためにできることは、第一に運動やトレーニング、食事によって筋肉をきたえで体力をつけ、変えてしまった体力を回復させることです。

・ポジティブに生き抜く指針

・年齢を重ねることをネガティブ(否定的)なものとしてとらえるのではなく、ポジティブ(肯定的)に、アクティブ (活動的)にとらえようという研究者がアメリカにいました。

1998年に、「年齢の嘘・医学が覆した6つの常識』(関根一彦訳、日経BP)を出版したジョン・W・ローウェ (John W. Rowe) 博士とロバート・レ・カーン (Robert L.Kahn) 博士の2人です。

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・生理的な老化を、「普通の老化 (usual aging)」と「成功した老化(成功加齢:successful aging)」の2つに分類し、これまでの老いの6つの常識(通念)を覆して、「成功した老化」を促進するにはどうしたらいいかを提唱したのです。

・老いの常識として挙げたのは、

・高齢者は病気がちである

(2)若くないと新しい技術はマスターできない

・今さら健康な生活をはじめたところでもう遅すぎる

・老化は遺伝的、両親は選べないからあきらめるしかない

5・性的な関心は年齢とともに衰えるいっぱうだ(明かりはつくが電圧は低い)

(6 ) 高齢者は社会のお荷物である

・の6つです。

・どれも誤解やネガティブな思い込みであると指摘したうえで、豊かに年齢を重ね(健康的な加齢: healthy aging)、自立した生きがいのある暮らしを楽しむためには、ポジティブな概念を導入する必要があることを訴えています。そして、次のような3つの要因を挙げています。

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・①病気や障害の原因となる危険因子を少なくする

認知機能()と身体 (運動)機能を 良好に保つ

・③人や社会と積極的に関わる

・重要なのは、これらの要因それぞれが相乗効果を生み、それによって自信(自己効力感、自分の能力に対する自己評価、セルフ・エフィカシー: self-efficacy) や生きがいにつなげることができるかどうかにあります。

・「アクティブ・エイジング」という新たな価値観

歳を重ねても生き生きと!「アクティブ・エイジング」とは | 介護の便利帖|あずみ苑-介護施設・有料老人ホーム レオパレス21グループ (azumien.jp)

・超高齢社会に突入した日本では、老いに対する意識は、近年だいぶ変わってきたように思います。

・老いに抗って若返りをはかろうとする「アンチ・エイジング (anti-aging)」はよく知られた言葉で、特に見た目において、年齢よりも若く見えることをよしとして、並々ならぬ努力を重ねている人を多く見かけます。

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・しかしここにきて、なにもそこまで老いを否定的にとらえなくてもいいのではないか、「年相応」でも魅力的なたたずまい、輝きがあるのではないかという意見が聞かれるようになりました。

・老いを自然の流れとして、よいことは「年の功」として受け入れ、不自由なことがあったら知恵を絞って解決し、その人らしさを保ちながら老いと上手に付き合っていこう・・それが、「ウイズ・エイジング (with-aging)」です。そんなにあくせくしないで、もっと穏やかに暮らしていこうではないかという響きが感じられます。

・さらにそこに、「アクティブ・エイジング (active-aging)」という新たな価値観が加わりました。

・アンチ・エイジングが「抗・老化」ならば、ウィズ・エイジングは「共・老化」、アクティブ・エイジングは「脱・老化」といえるかもしれません。この言葉は、WHO2002年の4月にスペインのマドリードで開催した「第2回高齢者問題世界会議」で、高齢者に対する支援の決意表明として採用したものです(国際連合広報センター総括資料)

30頁・1/23/2024 3:46:28 PM


・年齢を重ねても、運動習慣や食生活といったライフスタイルを見直し、健康を保ち、開じこもらずにさまざまな社会の分野に積極的に参加し、それによって生活の質(QOL) を高め、自立寿命をのばす機会が常になければならない――

1人でも多くの人がアクティブ・エイジングを実践する「アクティブ・シニア(元気な高齢者)」を目指さなければ、超高齢社会が破綻してしまうのは目に見えています。

・ユニークな調査研究が進行中

・そうした状況に立ち向かうためには、さまざまな分野・領域の知恵を結集して研究に取り組む必要があります。

・私が在籍する早稲田大学では、重点領域研究として、「超高齢社会におけるパラダイムシフト」というテーマ領域が設けられました。

・スポーツ科学、生命科学、ロボット工学の研究者たちが、超高齢社会でのエイジングを研究する拠点として、20136月に開設されたのが、「アクティヴ・エイジング研究所」で、現在私はその所長を務めています。

31頁・


・人類が経験したことのない超高齢社会においては、これまでとはまったく違う思考、認識、思想、行動様式、社会の規範や価値観の劇的な変化(パラダイム・シフト)が必要であり、当研究所は、特に、健康と運動。という角度からの研究開発拠点という位置付けがされています。

・現在、当研究所に所属する早稲田大学スポーツ科学学術院の教員が中心となって、"WASEDA'S Health Study"という、とてもユニークな調査研究プロジェクトが進行中です(

https://wasedas-health-study.jp

WASEDA'S Health Study (wasedas-health-study.jp))

・全国の早稲田大学の卒業生とその配偶者を対象にして、ライフスタイルが中高齢者男女の健康や体力にどのような影響を及ぼすのかを、遺伝要因、若いときのスポーツ経験と現在の健康リスク、心肺体力や筋力といった体力指標、食生活などと関連づけて長期的に検証し、信頼のできる疫学データを収集して健康長寿に貢献するのがねらいです。

・この大規模研究の成果は、先になりますが、2032年の公表を目指しています。

32頁・1/23/2024 3:55:35 PM


・すでにわが国では、高齢社会がさらに進んで超高齢社会を迎えてしまいました。

・それに対して、私たちは手をこまねいているわけにはいきません。

・上図にあるように、年齢とともに進む体力の衰え(身体的諸機能の低下)はだれにも避けられず、このままなにもしなければ、体力は障害閾値「イキチ」(障害が生じる境目となる値)よりさらに下がって、自立(健康)寿命と平均寿命との開きは拡大するばかりです。

40歳以上の男女を対象に行った意識調査では、将来もっとも不安に感じることのトップは「健康上の問題」でした(「平成28年版厚生労働白書』厚生労働省)

33頁・


・そうした不安を解消し、アクティブ・シニアを目指すには、なにが必要か。

・それには、まず体力をつけること。体力の衰えを食い止めるだけでなく、体力を回復さ せることを今すぐにでもはじめなければいけません。

そのキーとなるのが筋肉です。筋肉のうちでも特に下半身と体幹の筋肉をきたえれば問 違いなく体力はつき、年齢を問わず、

「いつまでも歩ける体」

「いつまでも動ける体」

をキープできるようになるでしょう。

次章からは、ふだんはなかなか意識することのない筋肉にスポットをあてて話を進めて いくことにしましょう。

34頁・1/23/2024 4:02:34 PM・第1章終わり?

 


 

・第2章・体の動くところに筋肉あり・34

・第2章 体の動くところに筋肉あり

・体が動くのは骨格筋のおかげ

・体のなかで動くところには、必ず筋肉があります。筋肉がないところは動かない、そう言い切っていいでしょう。

・手や脚はもちろんのこと、細かいところでいえば、まぶたが上がるのは眼瞼挙筋、(がいがんきん)眼球が動くのは外眼筋という筋肉があるからです。

・体のどこにあるのかによって筋肉には固有の働きがあり、すべてに名前(筋名)が付けられています。最近はマッチョ・ブームですから、もしかして、上腕二頭筋、大腿四頭筋といった名前ぐらいは聞いた覚えがある人も多いのではないでしょうか。

35頁・


・さて、その筋肉ですが、大きく分けると、

・骨格筋(体を動かす)

・心筋(心臓の壁をつくり、血液を全身に送り出す)

・内臓筋(血管や内臓器官の壁をつくる) 3種類があります。

・骨格筋は意識的に動かせるので「随意筋」、心筋・内臓筋は意識的に動かせないので「不随意筋」の分類に入ります。

・私たちの手や脚がなぜ動くのかというと、関節をまたいで2つの骨にくっついている骨格筋のおかげです。そのなかにある「筋線維」と呼ばれる筋細胞の束がのびたり縮んだりして骨格筋の長さが変化すると、関節を軸にして骨と骨との距離が近づいたり離れたりし ます。

・つまり、体が動くのは、このように骨格筋の収縮のおかげで関節が動くからです。

36頁・1/24/2024 8:03:05 AM


・なぜ体は硬くなってしまうのか

・「最近、体が硬くなったなぁ」と実感することはないでしょうか。これも筋肉と関係しています。

・ちょっと前まで、座って前屈をすると、手の指先がつま先にまで余裕で届いたのに、気づいたらできなくなっていて愕然としてしまう。体が硬くなれば、歩いたりしゃがんだりといったさまざまな日常動作もスムーズにできなくなります。

・なぜ、そうなってしまうのか。 原因として、体の組織の柔軟性が低下したり、関節の動く範囲(可動域)が狭くなってしまったことなどが考えられます。

・動物の器官を構成する組織には、「結合組織」「上皮組織」「筋組織」「神経組織」の4つがあります。このうち、他の組織をお互いに結びつける役割をしているのが結合組織で、その成分が、最近耳にしないことがないほど有名になったコラーゲンというたんぱく質です。組織の強度や弾力性を保っているのは、コラーゲンのおかげです。

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・ところが、この成分やお互いの結合のしかた (クロスリンク)が年齢を重ねるとともに変化すると、体の柔軟性が低下してしまいます。

クロスリンクとは、共有結合によって2つ以上の分子を化学的に連結させるプロセスを指します。 クロスリンク試薬(またはクロスリンカー、架橋剤)は、タンパク質上や分子上の特異的官能基(第一級アミン、スルフヒドリルなど)へ化学的に結合する能力のある複数の反応性末端を含む分子です。

・このように、組織の硬度(スティフネス)が増すと骨格筋の伸長抵抗性(のびることに対して抵抗しようとする性質)が強くなってしまい、関節の動く範囲が狭まって体が硬くなったという実感につながります。

・柔軟性も体力を構成する要素ですから、柔軟性が失われて体が硬くなるのも、間違いなく体力が衰えたことのあらわれの1つといっていいでしょう。

・筋肉が疲れるのは乳酸が原因ではない

・老いはまた、日常生活の活動量の減少を招きます。

・長い間体を動かさなかった人が運動をはじめると、すぐに息が荒くなってきついと感じるようになり、疲れ果てて体は動かなくなってしまいます。

・こうした疲労はなぜ起きるのでしょうか。

・これまでは、「疲労物質である乳酸が筋肉にたまるから」とまことしやかに語られてきました。

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・酸素の供給が少ない条件のもとで、骨格筋を動かすエネルギーとなる「アデノシン三酸 (adenosine triphosphate: aこという物質が生み出される過程において、乳酸という物質がつくられます。これが老廃物として骨格筋のなかに蓄積され、肪細胞内の (ペーハー、酸性とアルカリ性のバランス)を低下させると酸性化が極端に進み、筋肉がエルギー不足に陥って円滑な動きができなくなってしまうという説明でした。

・しかし今では、複数の研究によって、この説は否定されるようになりました。実験によれば、疲労によってたしかに乳酸の濃度は高くなり、筋肉のパフォーマンスの低下は見られるのですが、なかには低下が見られない動物もいるので、乳酸が直接の原因であるというエビデンス (科学的証拠)にはつながりません。

・また、乳酸は老廃物ではなく、酸素が供給されれば再びエネルギー源として利用されますし、筋肉内のも一定の範囲内に保たれています。

・したがって、疲れて体が動かなくなるのは、骨格筋内に蓄積された乳酸が筋肉の疲労をもたらしたからではなく、活性酸素によって攻撃された脳の疲労(自律神経の中枢の疲労)によるものという説が提唱されています。つまり、筋肉そのものが疲れているだけではな いのです。こうした最新の科学が解明した疲労の正体は、東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身院長の著書「すべての疲労は脳が原因(集英社新書)で詳述されています。

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・筋肉痛はなぜ起こるのか

・急に激しい運動をしたり、同じ筋肉を使いすぎたり、長時間慣れない姿勢を続けたりすると、次の日あたりに体が痛いと感じることがよくあります。これが、筋肉痛です。

・朝起きたら、どうも体のあちこちが痛い。なぜだろうと考えてみたが、前の日に部屋の片づけで少し重い荷物を運んだ以外に原因が思い当たらない――「えっ、こんなことで筋肉痛!」と、どうにも情けない経験をしたことはないでしょうか。

・筋肉痛もまた、乳酸が原因だと思っている方が多いかもしれませんが、そのようなエビデンスはなく。俗説にすぎません。ふだん体をあまり動かさない人が無理な動きをすると、筋線維やまわりの結合組織にミクロの傷がつきやすくなります。そこから侵入した微生物による感染から筋線維を守るために、白血球などの血直成分が集まってきて拡張した血管から細胞内に出てきます。そこで起きるのが、「炎症」です。

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・この炎症によって、生体防御に重要な役割をする「サイトカイン

」という痛みを発する物質がつくられますが、これが筋肉を包んでいる筋膜を刺激すると感覚神経が反応して、筋肉が痛いと感じられるのです。

・筋肉痛の多くは少し時間がたってから生じるので、「遅発性筋痛」とも呼ばれます。時間差があるのは、筋線維には痛みを感じる神経はなく、しばらくして炎症が起きてからで ないと痛みを感じないためです。

・筋肉痛の箇所をマッサージする、38℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かって血行をよくするセルフケアは、痛みの原因であるサイトカインを取り除くのに効果的です。

・もし、1週間近くたってもなかなか痛みがとれなかったり、1箇所に急激な痛みがあったりするときは、なにかの病気や骨折などのケガが原因とも考えられますので、すぐに医師の診断を受けましょう。

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・肉離れはアスリートだけに起こるケガではない

・陸上競技、サッカー、野球、体操など、激しい動きをする競技中やトレーニング中によく起きるのが肉離れで、それで試合を欠場するアスリートがかなりいます。

・調査対象が高校生とちょっと若いのですが、インターハイ全国大会に出場した選手のケガのうち、全種目を通してもっとも多いのが肉離れで、続いて脚関節の捻挫、骨折、疲労 骨折、・腱・靱帯損傷の順になっています。

・肉離れを起こした箇所も調査されていますが ろ、太ももの前、ふくらはぎの順になっています(「陸上競技ジュニア選手のスポーツ外傷・障害調査インターハイ出場選手調報告(1(2014年度版)~』日本陸上競技連盟)

・肉離れという言い方は、通称です。筋肉に強い収縮力が働くと、筋肉自体(筋線維や筋膜」あるいは筋肉と骨とを結ぶ腱が、過大な力に耐えられずに断裂、つまり切り裂けてしまうので、正式には「筋断裂(筋損傷、筋膜損傷)」といわれます。

・起こりやすいのは、太ももの大腿内転筋、大腿屈筋、大腿直筋や、ふくらはぎの腓腹筋、アキレス腱など下半身で、前述の調査結果とも一致します。

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・肉離れを経験した人の話では、ブチっという音がして、筋肉が切れたという感覚がはっきり分かるといい、強い痛みをとらない、断裂した箇所には内出血が起きます。すぐに冷やし、弾性の復で固定して整形外科を受診する必要があります。完治するまでには、長い時間を要します。

・「自分はアスリートではないから」といっても、油断はできません。急に全力疾走したり、かなり重い物を急に持ち上げたりするとだれでも起こりますから注意しましょう。

・骨格筋は筋細胞の束でできている

・ここで、体を動かす骨格筋のなかがどうなっているのか、ちょっとのぞいてみることにしましょう。

・次ページの図を見ると分かるように、骨格筋はたくさんの「筋線維」といわれる筋細胞の束でできています。筋線維は、直径が20~100 (マイクロメートル。1皿は0.00 1㎜。1M(ミクロン〉)、長さが数回から長いもので数十四の細長い1つの細胞です。

・この筋線維には、収縮の速い「連筋線維(fast twitch:)」と、収縮の遅い「遅筋線(slow twitch:ST)」の2つのタイプがあります。

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・さらに、筋線維を入って いくと、「筋原線維」が詰まっています。「筋節(サルコメア)」と呼ばれる最 小単位が連なった構造で、そこには2種類のたんぱく質の鎮(フィラメント)が 多数、規則正しく配列されています。

・太いほうを「ミオシン・フィラメント」、細いほうを「アクチン・フィラメント」と呼び、このフィラメントが、骨格筋の収縮に大きく関係しています。


・図を・1/24/2024 8:38:24 AM


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・筋線のなかにあるのは、フィラメントだけではありません。

・筋収縮のエネルギーとなるアデノシン三リン酸 (ATP)の生産工場であるミトコンドリア、たんぱく質の合成工場であるリボソームなどの小器官、ATPを再合成する材料となるグリコーゲン顆粒(微小な紋)、脂肪滴(買やたんぱく質などを含んだ球形の液滴)など も、筋肉にとって重要な働きをしています。

・あなたの筋肉は短距離型、それとも長距離型?

・骨格筋が収縮するとき、骨格筋をつくる速筋線維と遅筋線維の2つのタイプがどちらも されるわけではありません。

・文字通り、速くて瞬発的な動きをするときには主として速筋線維、遅くて持続的な動きをするときには主として遅筋線維と、私たちはどのような運動や日常の動作をするかによって、どちらかのタイプを優先的に使い分けているのです。

・太ももの前側に大腿四頭筋という筋肉があります。立っているときや歩いているときに主として使われているのは遅筋線維ですが、ジョギング、ランニングと走る速度を上げていくにつれて速筋線維が動員される比率が高まり、全力疾走しているときに使われるのは、 ほとんどが速筋線維です。

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・スポーツ選手をみても、短距離の100m走や跳躍、投擲など瞬発力が必要な競技の選手では速筋線維が、長距離走やマラソンといった持久力が必要な競技の選手では遅筋線維が多くなっています。

・この2つのどちらの比率が高いか低いかは、体のどの部位にある骨格筋かによっても異なり、また遺伝の影響も小さくありません。

・言い方を換えれば、速筋線維の比率が高い人は短距離・瞬発型、遅筋線維の比率が高い 人は長距離・持久型の競技に向いているといえるでしょう。

・自らを振り返ってみて、100m走は苦手だったけれど長距離走は得意だったという人の筋肉は遅筋線維の比率が高く、長距離走は苦手だったけれども100㍍走には自信があったという人の筋肉は速筋線維の比率が高いといえます。

・その究極がオリンピックに出場したアスリートたちで、短距離・瞬発型競技者の筋肉は4分の3が運筋、長距離競技者の筋肉は4分の3が遅筋破壊で占められていることが分かっています。

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・実は、この速筋と遅筋視維の違いは、収縮が速いか遅いかだけではありません。

・速筋線は、瞬間的に大きく強い力を出しますが短時間で疲れやすく、遅筋線維線は、瞬間的に大きな力は出せませんが、長時間使っても疲れにくいという特徴があります。なおかつ、加齢によって減りやすいのは速筋線維であることが明らかになっています。年齢を重ねると、瞬間的に大きく強い力が出せなくなるのはこのためなのです。

・遅筋線維よりも速筋線維を優先してきたえるには、有酸素運動よりも瞬間的に強い負荷を行えるレジスタンス (筋抵抗) 運動のほうが効果的です(レジスタンス運動については、第5章で詳しく解説します)

・余談ですが、速筋線維は白っぽい色をしているので「白筋」、遅筋線維は赤っぽい色をしているので「赤筋」とも呼ばれます。この呼び分けは、エサをとるときの動きが俊敏な白身魚、長い距離を回遊している赤身魚とも共通しています。

・白身か赤身かは、ミオグロビン (筋肉ヘモグロビン)という筋肉中の色素たんぱく質の含有量によって区分されます。筋肉中に酸素を貯蔵する役割をしており、含有量が多ければ身は赤くなり、酸素と結合する力が強くなります。

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・また、細胞内にあるミトコンドリア (細胞が使うエネルギーのほとんどをつくり出し、持久力に関係する小器官)が多いと、筋肉はより赤くなります。

・骨格筋を動かすエネルギー通貨は在庫が少ない

・こうした構造をもつ骨格筋ですが、脳からの命令がない限り、それ自体が勝手に動くことはありません。

・脳からの命令の伝わり方は、大きな流れでいうと次のようになります。

・大脳の運動野からの命令が電気的刺激(インパルス)として中枢神経系の神経経路を伝わり、背個内にある運動神経細胞(運動ニューロン)から軸索突起と呼ばれる神経線維に到達します。

・するとその末端から、電気的刺激はアセチルコリンという刺激伝達物質に変換されて散 出され、それが、シナプスという接続部位を介して骨格筋細胞に伝わって筋の収縮を起こすわけです。

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・私たちが体を動かしているときは、このような情報伝達の流れが、体のあちこちで絶え間なくくり返されています。

・骨格筋が取組するときにエネルギーとして使われるのが、前述のアデノシン二リン酸 (ATP)で、「エネルギー通貨」ともいわれています。ATPは酵素の作用で、「アデノシンニリン酸 (adenosine diphosphate: 」と「無機リン酸」とに分解され、そのときに放出されるのが骨格筋収のエネルギーとなるわけです。

・ここに大きな問題が1つあります。

・このATPは、ふだんは筋肉内に貯蔵されていますが、量はごくごくわずかで、ほんの数秒の骨格筋収縮によって消費されると、在庫がまたたく間になくなってしまうのです。そのために、食事によって取り込んだ糖質や脂質などを使って体内で再合成し、供給してあげなければなりません。

ATPを再合成するしくみは、ATP-CP(非乳酸系)・解糖系(乳酸系)・クエン酸 (TCA)回路系の3種類がありますが、体内でこのような「エネルギー代謝」が行われなければ、ATPの在庫はなくなったままです。

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・ですから、体を動かすためには、骨格筋のエネルギー源(エネルギー基質)となる栄養素を食事によってきちんととらなければいけないわけで、栄養素が不足してしまうと大変な事態を招いてしまうことがこれでお分かりでしょう(筋肉に必要な栄養素のとり方は、第 6章で詳しくお話しします)

・骨格筋の役割は体を動かすだけではない

・骨格筋は、脳からの命令によって体を動かすためだけにあると思われがちですが、実はそうではありません。意外にも、がんや糖尿病を予防し、脳を刺激して認知機能を改善するなどの可能性のある重要な物質を分泌している、いわば内分泌器官でもあるのです。

・近年注目を集めているのが、デンマーク・コペンハーゲン大学のペンテ・ペダーセン教授のチームが発見した「マイオカイン (myo: 筋、kine:作動物質。筋肉由来内分泌因子)」と起待される種類以上のホルモン群です。そのいくつかを説明しましょう。

・「ミオスタチン」は、骨格筋細胞の増殖を抑えるTGF-Bスーパーファミリーたんぱく質です。筋肉をきたえている人にはじゃまな存在と思われがちですが、筋肉が異常に発達 することによってエネルギーを浪費してしまうのを防いでくれます。


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・「カテプシンB」は、生物の細胞内(とくにリソソーム)に蓄えられているたんぱく質分解酵素群の総称です。記憶力を高める可能性のある物質ともいわれています。

・「IL-6 (インターロイキン-6)」は、感染や疾患に対する免疫系、血液系などの生体 防御を活性化する重要な物質です。免疫細胞の暴走を抑えてくれます。

・「スパーク(SPARC: Secreted protein acidic and rich in cysteine)」は、大腸がんの細胞の自然死を活性化させ、その発症を抑える可能性がマウスを使った研究で示されています。

・これまで、大腸がんの予防に身体活動の重要性が指摘されてきましたが、「スパーク」に関するこうした研究が将来、運動による大腸がんの予防効果の解明に寄与するのではないかと期待されています。

・「アイリシン」は、脳の神経細胞の新生・再生に欠かせない「BDNF (Brain Derived Neurotrophic Factor: 腦由来神経栄養因子)」と呼ばれる重要なたんぱく質の濃度を高めて、 脳の働きを促進する作用があるといわれています。

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・ほかにも、動脈硬化の進行を遅らせる「アディポネクチン」、アルツハイマー型認知症の原因となる物質アミロイドを減らす 「IGF-1」は、いずれもマイオカインです。

・このように、骨格筋から分泌されたマイオカインは、血液の流れに乗って体のあちこちに届けられ、さまざまな働きかけをしているわけです。

・ここでポイントとなるのは、マイオカインは、運動不足などでほとんど使われずに新陳代謝が十分に行われていない骨格筋からは分泌されにくく、分泌される量にも限りがあるという点です。つまり、マイオカインの分泌を促すには、骨格筋を動かす運動をコンスタントに続けて筋量を増やすのが有効です。

・体を動かさなければ、病気にかかりやすくなる―私たちの体は、動くことを前提につくられているものなのです。

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・体が動くのは骨格筋のおかげ・

・なぜ体は硬くなってしまうのか・36

・筋肉が疲れるのは乳酸が原因ではない・37

・筋肉痛はなぜ起こるのか?39

・肉離れはアスリートだけに起こるケガではない・41・・

・骨格筋は筋細胞の束でできている・42

・あなたの筋肉は短距離型、それとも長距離型?46

・骨格筋を動かすエネルギー通貨は在庫が少ない・47

・骨格筋の役割は体を動かすだけではない・49

・第3章・筋肉は使わないとすぐに衰える怠け者52