野宿生活者の仕事起しに寄せて

・・「ワーカーズコレクティブ」又は「労働者協同組合」という働き方

          

                         2005/6/18 堀之内洋一

まえがき

今日は、貴重なお時間を頂きありがとうございます。僕自身、従来の「資本に雇われ、その指揮の下に働く(すなわち、資本にとって不用になれば捨てられる)」というスタイルではなく「協同で出資して仕事を作り、協同で働く(労働が資本を使う)」という「ワーカーズコレクティブ」とか「労働者協同組合」とかいわれているスタイルに関心を持ってからもう10年くらいなります。実際に自営している仕事場をそうしたスタイルで運営しようと試みた時期もありましたし、「障害者・高齢者協同組合http://kourei.roukyou.gr.jp/ 」の設立を呼びかけて活動した時期もありました。(その時の経験は苦いものですが、別の機会があればまたお話します)

何故、こうした働き方に関心を持ったかと言うと、詳しくは口述にしますが、簡単に書くと「意識は人権擁護や生命尊重(公)」「体は市場競争、売れればよい(私)」という存在の在り様の股裂きにとても悩み、楽しくなかったからでした。

確かにこうした働き方は試行錯誤を伴ないますが、受身ではない自分たちの仕事の手作りの実感は何物にも替え難い集団作りとなることでしょう。

今日御紹介する拙いこの資料が、皆様の仕事起しの何かの参考になれば幸いです。

なお、野宿生活者の方の出資金は、労働の対価からの分割出資でいいわけですので、その点は心配いりません。

 

(1)一般に労働者協同組合の歴史は3段階に分けられる。

 第一段階はロバート・オーエン等のイギリスに始まった協同組合主義的社会主義で、ロッヂデールの町から起こった資本家の暴利から労働者を守る抵抗の手段だったが、資本との闘いの中で負けてしまった。

 第二段階はアメリカの消費生活協同組合で働く者の相互扶助だったが、一般企業と変わらなくなってきている。

 第三段階がモンドラゴン(末尾、資料1)等に代表される「労働者協同組合」で、人間を大切にする立場に対し注目されてきている。

 

(2)現在の日本の労働者協同組合の例

・労働争議から生まれた例

 自主管理・・パラマウント製靴http://www.para.co.jp/ 、大分自交タクシー

 解雇され裁判闘争中の人達が設立・・国労の「ワーカーズ」

     企業倒産から生まれた例

メガネ21http://www.two-one.co.jp/a21/ 

     失業対策事業の打ち切りから〜

全日自労→日本労働者協同組合連合会http://www.roukyou.gr.jp/

     生協 レイドロー報告(1980年)http://jicr.roukyou.gr.jp/hakken/2000/08/nakagawa.html をひとつのきっかけとして

生活クラブ生協・・ワーカーズコレクティブhttp://www.wnj.gr.jp/ 

グリーンコープhttp://www.greencoop.or.jp/ ・・ワーカーズ

     職業訓練校同期生などが協同で起業する例も

     スローワーク(末尾、資料2)  半農半X

 

(3)市場競争圧力との対抗・・・地域作りと結ぶ

 公的セクター、私的セクターに対して協同・共生セクターを浮上させていく

     「べてるの家http://www.arsvi.com/0d/beteru.htm 」の形成過程、ネットワークの活用は参考になりそう(自らが関係する全ゆるネットワークを活用)

     食とエネルギーの自立の試み、休耕地耕作(牟礼谷農園・仮称http://chiikithuuka.at.infoseek.co.jp/index-81.html )や市民共同発電所、地域通貨等の新たな文化圏

 

(4)再び「受身の歯車」に成らず

・「精神労働と肉体労働の対立」の止揚

     中井正一「委員会の論理」(反省概念の拡大・・「関係」の反省)(末尾、資料3に図を追加予定)

     過去のあれこれの共同体の失敗(山岸会 etc

 

(5)具体的展望

・釣りワーカーズは既に活動中(笑)

・便利屋事業

     ベロタクシー事業

     ヘルパー事業

     百円食堂事業

     介護タクシー事業(高知の例)

いずれにしても「労働者協同組合」法はまだ成立していないので、「企業組合」が現行では最も理念に近い。

 メンバー、支援者各々のネットワークをフルに生かして仕事を起こして行きましょう!!

 

補遺 「ふるさと回帰支援ネットワークhttp://www.furusatokaiki.net/ 」等の就農支援の活用も

 

あとがき

近代社会への反省は色々の人々が述べていますが、ポランニーという経済人類学者http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0151.html は、近代という時代について「労働、貨幣、土地」が商品化され社会から離床し、市場(彼はそれを「悪魔の挽き臼」と呼んだ)に投げ込まれて「労働‐労賃、貨幣‐利子、土地‐地代」という三位一体範式が成立した時代と特徴付けたそうです。かつてそれらは社会の倫理や文化によって統御され、自然と社会の懐に埋まっていました。協同共生セクターの試みは、社会から離床したそれらを人々の営為によって再び埋め戻す長い過程かもしれません。

 

 

参考資料1

 

[ 労働が資本を支配する ・・・モンドラゴン生活協同組合の歩み

 

1]スペインのモンドラゴン生活協同組合は、バスク地方のレニス渓谷で、スペイン内戦(19361939)後、共和国軍に新聞記者として参加したカトリック司祭ホセ・マリア・アリスメンディアリエタが1943年に技術学校を創設、20人が卒業し、11人が大学へ進学した。卒業生5人で100人の出資者により、ストーブと石油調理コンロの生産を1956年に労働の自主管理方式で始めたことから出発した。

 

労働者は雇われるのでなく、一人160万ペセタ(1ペセタは日本の約1)を出資して、共同経営に参加し、働いて商品を作り、輸出や販売によって得た利益の配分を受け取る。利益の10%は教育費へ、20%は内部資金として留保し、残り70%は出資額に応じて配分される。賃金ではない。バスク地方80万人のうち28千人が組合員である。

 

2]生産事業は、イ)冷蔵庫、自動洗濯機、電気ストーブ、トレンジスター、電話やコンピューターソフト等の生産部門。 ロ)種々の製造機械などを作る工作機械部門。 ハ)乳牛1500頭による牛乳・バターなどの乳製品や、養豚6000頭、化学肥料、製材等の農業部門。 ニ)スーパー225店を含む13万人の消費組合がある。総売り上げ2100億円位のスペインで7位の事業規模である。

 

資金はスペイン全土に支店を持つ労働人民金庫が、他の銀行より1%預金利子が高いため多額の預金を吸収して出資している。

 

3]教育事業は保育所3、小学校及び初等中学校3、後期中学校及び大学予備校2、各種技術学校5を有し(1988年現在)、在校生6000人、学生は工場で働くことで授業料や生活費が保障される一方、労働と教育を結合させている。ロボットやマイクロエレクトロニクス等の研究部門も有している。バスク語とバスク民族文化を堅持している。

 

4]住宅供給や、家事労働から女性を解放する給食6000食やパート労働などを保障している。

 

スペインのモンドラゴン協同組合にないのは軍隊だけと言われるくらいの地域共同体で、その原理は「資本が労働を支配するにではなく、労働が資本を支配する」という原則で、「人間は尊敬されるべきもので、一人は万人のために、万人は一人のために」の考え方にあるといえる。

 

 

参考資料2

 

■スローワーク宣言■

 

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 わたしたちは、利益や効率追求のためにひとびとを孤立させるのはなく、

さまざまな「つながっていく」労働をめざします。

 

 

■ スローワークは、わたしとみんなをつなげます。

 

 

■ スローワークは、わたしと地域をつなげます。

 

 

■ スローワークは、わたしと技術をつなげます。

 

 

■ スローワークは、わたしと地球をつなげます。

 

 

■ スローワークは、わたしと「わたし」をつなげます。

 

 

■ スローワークは、農村と都市をつなげます。

 

 

■ スローワークは「南」と「北」をつなげます。

 

 

 

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□日本スローワーク協会設立趣意書□

 

 

□ 趣旨  

 

 高度経済成長は大量生産・大量消費による物質的な豊かさを可能にしてきました。労働者たちは終身雇用・年功序列賃金によって守られることで、豊かさを享受することができました。良い学校から良い会社へ入れば、安定した一生が保証されるという価値観はこうした社会システムが機能している間は有効でした。

 

 バブル崩壊以降、企業の倒産やリストラと称する実質上の正社員の解雇が続き、一方では若者たちの就職難からフリーターが急増し、「引きこもり」「NEET」などの現象を生むに至りました。また、大量生産・大量消費は大量廃棄を生み二酸化炭素の排出量を増大させることで環境破壊を加速させています。

 

 既に旧来の社会システムが崩壊しているにもかかわらず、未だ社会的価値観は高度経済成長期のそれであり、過去の繁栄の反復を目標としています。日本スローワーク協会は旧来の競争原理と自助自立によるファースト(より早く、より大きく、より多く)な価値観に替わる新しい生き方・働き方を提唱し実践することを目的に組織されます。

 

 スロー(遅い、ゆっくり)という競争社会のなかで貶められてきた価値を復権することにより、私たちの生活や労働や人とのつながりを問い直すことで新しい社会モデルを提唱します。

 

 スローワークは地球環境や人間同士の共生のなかにこそ可能な働き方であり生き方です。また仕事作りであり、生きがい作りであり、人間らしく生きるための価値観の創造です。

 

 日本スローワーク協会は、多くの人たちの賛同と協働を呼びかけます。

 

参考資料3

集団の知・・・中井正一http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E4%BA%95%E6%AD%A3%E4%B8%80 

「委員会の論理」図掲載予定、しばらくお待ちください