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2017年3月 第204号

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 今年の大学入試も、例年のことながら寒波の来襲の中で実 施。いらぬ気遣いが加わり、受験生達の心境を考えるといかば かりかと。それに引き換え高校入試の方は、卒業式を前にした 3月の実施で、要らぬ心配をせずに済みます。子供達にとっては、自分の将来の方向性が大きく左右され る高等学校選び。モシターンでもたびたび取り上げてきたよ うに、近頃は実業系の高校が充実度を増し、教育現場の自在な 取り組みから、一足飛びに社会で活躍できる人材を作ること に適進している様子です。
 ところが、大学進学という目的以外は少しその存在のア ピールが乏しかった普通科高校から、ついに成果を現し始め たすこぶる普通科らしい活躍の話題が舞い込んで来ました。
 ナニ?ツクツクボウシの方言の研究成果で国際大会に 行く!?
 今回は、国分高校の生徒父兄でもあるパンダママに、いま 普通科の高校で何が起きているのか、徹底リポートしてきて もらいました。

 「生きる力」を育む教育が強調される昨今、子ども達には自ら学び、考え主体的に行動し、 問題を解決する能力に加え、協調性やたくましく生きるための健康や体力が必要とされて います。
 その一環としてスポーツ活動やなにか『一芸』に秀でることが脚光を浴びています。そん な中、ある事柄を深く研究する学習活動を通して「生きる力」を育む『課題研究』すなわち、 身近な疑問から課題を設定し自ら実験や観察を計画、工夫をしながら実行して得られた結 果を深く考え、データを整理し発表する活動に力を入れている国分高校のサイエンス部の 活動をご紹介します。

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【Ⅰ国分高校サイエンス部の活躍】

 今年度の鹿児島県立国分高等学校の科学研究の受賞歴に驚かされます。平成28年7月鹿 児島大学で開催された第32回日本霊長類学会(鹿児島大会)で3年生の昆虫班が中高生ポス ター発表の部で最優秀賞を受賞したのを皮切りに、8月には第40回全国高等学校総合文 化祭では鹿児島県代表で参加した3年生の昆虫班はポスター発表部門で全国8位に値 する奨励賞を受賞。
 第18回中国四国九州理数科高等学校課題研究発表大会では、3年生の昆虫班と地学班が ポスター発表部門の生物部門と地学部門でそれぞれ最優秀賞を受賞。2016関数グラ フアートコンテストでは数学班が優秀賞(全国15作品)。
 さて課題研究に取り組むのは3年生の夏まで。秋になるとそれぞれの目標の進路に向 けて受験一色となります。秋以降は後輩の2年生が、継続実験で先輩達の研究をさらに深 めるグループ、新たなテーマに取り組むグループに分かれ日々地道な活動を行ってい ます。
理数科は全員がサイエンス部所属に
 平成28年度の理数科2年生は38名。全員がサイエンス部に所属します。取り組む課題研究 テーマは物理、化学、生物、地学の4部門8テーマ。放課後や夏休みも利用してグループで日々熱 心に研究を進めています。
 昨年11月には鹿児島県生徒理科研究発表大会で生物部門(ツクツク班:屋久島方言で鳴くツクツ クボウシの研究Ⅱ~幸屋火砕流による分布拡大仮説の検証と分布拡大経路の解明~【指導:小溝 克己教諭】、地学部門(雲班"錦江湾に出現する眉状雲について【指導:若松斉昭教諭】は最優秀賞、 物理部門(グリーンフラッシュの謎に迫る~モデル実験でわかった緑色光の発生機構~【指導:岡 元剛志教諭】は次点の優秀賞を受賞し、第41回全国高等学校総合文化祭に県代表として18人の参加が 決まっています。
 同一校が3部門で全国切符を取るのは県内では初めて。しかも彼らは同じクラスメイトでもあ ります。平成28年度から3年間県内で唯一(全国27校、九州3校)国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)の次世代人材育成事業「中高生の科学研究活動実践プログラム」の指定を受け、大学での サイエンス研修やプレゼンテーションの研修も受けられる恵まれた環境になっています。< 探究的な活動をすすめるために
 平成21年、「高等学校学習指導要領」では、探究的な学習活動を充実させる観点から、理科 の科目として「理科課題研究」が新設されました。「高等学校理科で学習した基礎的・基本 的な知識や技能を踏まえて、これらを活用して探究的な活動に取り組む科目である。」と されています。
 しかしながら、履修科目としての時間数では到底時間が足りません。理科研究には失敗 がつきもの、繰り返し実験や観察が必要で膨大な時間がかかります。課題を設定し観察、 実験を行い、検証を重ね数多くのデータをまとめ考察し、その成果を報告書にまとめ発表 (プレゼンテーション)をするのです。
 そこで課外活動としてのサイエンス部が意味を持ってくるのでしょう。

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【Ⅱアクティブ・ラーニング】

 「アクティブ・ラーニング」という言葉があります。この言葉は日本では大学教育で使わ れていています。知識の伝達、注入を中心とした授業から、教える側の教員と学ぶ側の学 生が意思疎通を図りつつ一緒に切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場 を創り、主体的に問題を発見し解を見出していく能動的学習と2012年文部科学省は 定義しています。それに遅れること2年、2014年の小中高の学習指導要領の諮問 に「アクティブ・ラーニング」という言葉が使われています。
 平たく言うと「何を学ぶか」ではなく「いかに学ぶか」ということ。「思考力・判断力・表現 力」や「主体性・多様性・協働性」が重要視されます。これからの時代求められるのは、既存 の知識を沢山詰め込むのではなく、その知識を使って、新たな問題を発見しそれを解決す る力、あるいはこれまでに無かった新しい事柄を創造する力なのです。
 平成6年4月の理数科開設以来23年国分高校の理数科には、好奇心を大切にする土壌が 着実に根付いており、まさにこのアクティブ・ラーニングを実践していると言えるで しょう。

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【Ⅲ指導教諭の苦労】

 化学班を指導している戸床恭子教諭は理数科の担任でもあり、日々生徒の頑張りを最も間 近で感じている教諭の一人。理数科であったからこその経験を子ども達は積んでいると語り ます。
 化学班は4名、生徒は1年生のときに学習した『金属樹』の美しさに感激して自分達でテー マを選定したのだとか。樹枝状に析出した金属はまるで生きている植物の様。その形や色は物 質によって様々で条件によってはその成長する様子が観察できるのだそう。
 しかしながら、その条件だしがとても難しい。実験を繰り返し、失敗を重ねながら改良し ていく日々。当然、失敗が続くと心が折れそうになります。それでも、最後まであきらめず結 果をまとめている生徒たち。これは、どのテーマを研究している生徒も同じ。実験や観察には 失敗がつきものであり、挫折を繰り返しながら生徒たちは日々切磋琢磨しています。
 物理班を指導する岡元剛志教諭は、課題研究のための設備が不十分な中、生徒から実験を 提案され、それに必要な器具や材料を準備する後方支援が顧問の仕事と語る。百円グッズ やガラクタをうまく利用して研究しているのだと語ります。
 実験結果に対しては、教諭も生徒とともに考察し、第三者的な立場での検証(文献の検索 や理論的検証)を行う。実験を繰り返す中で徐々に研究対象に対する興味や理解が深ま り、生徒自身が主体的に行動できるようになるのを見るのが顧問として楽しみの一つなの だとか。
 理数科主任で地学担当の若松斉昭教諭の専門は地質学。これまでは火山や地質を中心に課 題研究の指導を行ってきた。ところが、生徒たちが決めたテーマは「錦江湾にできる雲」。気象 予報士でもある若松教諭。つい難しく考えてしまい実は及び腰だったと本音がチラリ。ところ が、生徒たちの意欲は素晴らしく、気象台にメールで問い合わせたり、桜島に聞き込み調査 に出向いたりと、自分たちで次々に課題を解決していったことに内心驚いたのだとか。
 解決できたことがある一方で実験室ではなかなか雲を再現することができなかったと教 えてくれました。諦めムードが広がる中、生徒と一緒になってあれこれ議論し、装置を改良 した末、ついに目的の再現結果を得られた瞬間の感動は忘れられないと嬉しそうにと語ら れます。結果、「雲班」は県の研究発表大会で最優秀賞を頂き、全国総合文化祭の県代表にも 選ばれました。
 昨年末、環境大臣賞を受賞した「ツクツク班」を指導している生物の小溝教諭は、離島での個 体サンプルの採集の苦労を教えてくれました。
   黒島と竹島では個体数が少なく、2回目の調査でようやく採集。往復12時間の船旅。島で の調査時間は約3時間…。採集できなかったときの敗北感と絶望感は言葉では表現できな いと言います。なにしろ生き物が相手。ツクツクボウシが採集できなければ当たり前だが研 究は進まない。ところが、採集のチャンスは当然夏の間だけで、台風で計画通り採集へ行け なかったことも…。船酔いに悩まされた生徒もいたのだとか。
 学校に戻ると毎日標本作りに明け暮れます。ノギスという精密に計測できる測定器で サイズを計測し、データとにらめっこ。神経をすり減らすDNA抽出作業…。生徒たちはよく 頑張ったと思います。
 発表会ではこれまでに多くの成果を上げてきましたが、8月の全国大会までに、音声解析を充 実させ、研究に磨きをかけ、最終的には幸屋火砕流が大隅諸島の昆虫相に与えた影響の解明に繋 げて欲しい。と先々の展望までを教えてくれました。ツクツク班は日本代表として5月米国で の世界大会への派遣が決まっています。

【Ⅳ生きる力としての課題研究】

 理数科の課題研究は、生徒が自ら考え、自ら 動き、悩み、工夫して、そして課題を解決する喜 びを実感できるとても良い機会。この貴重な経 験は、これからの混沌とした社会を生き抜くた めの大きな力になることは間違いない、と教諭 たちは口を揃えます。そして、私も新しいこと にチャレンジする精神を生徒とともに持ち続 けている教師たちが存在することに感動を覚 えました。前向きな教諭たちに支えられて、国 分高校サイエンス部の生徒たちのさらなる挑 戦は続くことでしょう。(文反田裕子)


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