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2017年2月 第203号

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 小生、ミナミノフクロウという名をいただき、毎度、何のことやら知れぬ詩文を巻頭に書 いておるものであります。決して鳥類ではありませんが、本年は酉年。一昨年手に入れた トオメガネカメラで、このあたりに飛来する仲間達を、バシャリ、バシャリと捕まえおり ましたところ、「今しかない、今回の特集にせい1」と、天の啓示を受けまして、それなら、と 整理方々披露する始末と相成リました。  この年末年始も、フクロウの一つ覚えで国分から隼人に続く干拓地の海岸線をうろうろ いたしました。数人のカメラマンにも遭遇しましたが、最も驚いたのは鵜や鴨の群れる 岩場のもっと先で、腰上まで水に浸かって、桜島にカメラを向ける人物が偶然写リこんで いたことでした。年賀状の写真?フォトコンテスト用?いやいやもっと大きな思いを もってそこに立つ崇高な精神の持ち主…
 海と陸の接する辺境ラインには、様々な人々がそれぞれの思いをもって訪れるもので す。そしてまた、人の営みの先、自然との接点に野鳥達の楽園もあるのでした。
 人が必ずしも人類の専門家ではないと同様、ミナミノフクロウも大して鳥類の専門家で はありません。ただ、トオメガネの力で、「おお!お前もそこにいたか!」と、仲間の存在に 嬉しさを隠し切れないだけなのですが、その「お前」が誰なのかは、さすがネット社会、パソ コンで名前を知ってこそ楽しさも増すものです。
(文、写真/MINAMINO HUKUROU)

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【1 水鳥のサファリ】

 さて、鳥達の物語は国道10号と九州自動車道の南、江戸時代、天降川の川筋直しで流れ出た 土砂によって生まれた新田の先、海と接する潮溜り調整池に始まる。もっとも大きな池が浜の 市港の水路出口の西にあって、近くには養鰻場、また数本の水路の流れ込みのためか食性が 豊かなようで、多くの水鳥たちが混在し棲息している。
 朝、日が昇る前から三本の立ち木にねぐらを得ていた百羽を越すカワウたちが頭をもたげ、 何かを合図にいっせいに空へ舞った。やがて堤防の向こうから朝日が差し始めると、そこはさ しずめ水鳥達のサファリのような光景へと変わった。悠然と立つダイサギやアオサギ、羽繕 いをするクロツラヘラサギ、その間を縫って幾種類かの鴨の群がそれぞれの目覚めの時を迎 える。
 万遍なく点在する黒い固体はオオバンだ。クイナ(水鶏)の仲間で、このあたりではカルガモ やサギ類と同じくらいポピュラーな鳥である。海岸線はウォーキングや散歩のメッカだが、 土地の人々と適当な距離をとりながら、日々変わらぬ光景がその朝も繰り返されていた。

【2 一〇〇メートル先のガラパゴス 】

 一方、天降川の東の海岸線には、海中に列を成す岩場がある。江戸の末期、島津の干拓 の石積みが海側に残されて、今やそこは鵜たちの絶好の溜まり場となっていた。トオメガ ネで眺めると、まるで絶海の孤島、ガラパゴスの海岸だ。ガラパゴスウミウは飛ぶことを やめて羽を退化させたが、ここのカワウはこの海岸線を縦横に行き来して、カルガモとと もに圧倒的な勢力になっている。
 「ボラん子んエッナを喰われっ、たまらんがヨ!」国分広瀬のお盆の精進明け行事「は んぎりだし」に関わる知り合いと、堤防で遭遇した。「鴨猟が禁止されてから増えたねー」 と、同じ場所を見ながら語ってくれる人も。
 この状況に、朝鮮半島から越冬のため飛来する珍しいクロツラヘラサギの保護が加わり、 国分~隼人の海岸線は水鳥たちの楽園となっている。

【3 黒面(クロツラ)と白面(シロツラ)もいた! 】

 昨年から気付いていたことだが、クロツラヘラサギの集団の中にツラが黒くない、命名 上オリジナルのヘラサギが一羽ともに暮らしているのだった。クロツラより一まわり大き くへら(しゃもじ)型の嘴(くちばし)も長く大きい。どちらも稀な冬鳥として日本に渡来するらしい が、シロの方が珍しいと正月の新聞で知った。今シーズンは昨年12月の初めにクロツラ達 の餌を漁る光景を、養鰻場の近くで見て嬉しくなった。以来、海岸に通うたびにその群の所 在を探してしまう。どうやら調整池のある東西から河口遠浅の波打ち際までの広い範囲で それぞれが餌をあさり、午後、時が来れば30羽ほどが寄り添って片足立ちして休むというパ ターンだ。潮の干満などあり、野性の本能はわれわれの図りきれるものではないが、ユーモ ラスな餌漁りの姿は早朝からが本番なのは確かだ。
 良く見ると、嘴の色、羽毛の艶、体格に違いがある。幼鳥を伴っての飛来なのだろうか。3月、調整 池の土手に菜の花が咲くころまで、姿を見ることができる。

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【4 カモにもいろいろありまして 】

 餌付けされたカモやアイガモなども多いので、マガモとカルガモくらいはその姿を思い浮 かべることだろう。だが水辺にはまだ幾種類ものカモがいる。その映像をネットで検索してみ ることにした。
 まずはヒドリガモ。カルガモより二まわりほど小さい。赤茶色のフサッとした頭の正面には オレンジ色の額色があり、目が大きく愛くるしいスタイル。天降川河口で数多く繁殖している。 以前カルガモに混じって静かな澱みを泳ぐ姿が、カモのおもちゃに見えたことがあった。雌は カモ類共通で全体に渋い色。飛び立つ姿が良く紹介される。
 愛くるしさで負けていないのがキンクロハジロだろう。冬鳥であるが浜の市の池では 良く見かけていた。真っ黒の容姿に腹だけ白い。そこにオレンジの目、ブルーの嘴が鮮や かなのだ。幼い個体は頭でっかちで実にひょうきんな風貌。大人の個体でもヒドリガモよ りやや小さいくらいだ。先日、ラッコのように水にあお向けに浮いて、腹を日光にさらし ている姿を見かけた。
 浜の市の池に50羽以上はいるだろうと思われるのがホシハジロ。粟色の頭に小さな赤 い眼、黒灰色縞の胸に銀灰色の胴回り、カルガモよりは少し小さいが、ほっぺたがやや膨 らんで大人の風貌だ。朝はいつまでもじっとしていたが、昼間はいくつかの群れで活動し ていた。
 同じく浜の市の池でいつも見られるのがコガモだろう。名の通りカルガモの半分ほど の大きさだ。日本では最小のカモとのこと。これも冬季に南に渡ってくるというが、ここ では年中見るような気がする。雄は赤茶色の丸い頭に黄色、黒、緑の隈取りで存在を示して いる。大きな調整池の隅々で暮らしている。
 広い調整池の水面の大きめな白い個体はツクシガモだった。30羽ほどいるだろうか。頭 は黒緑色に赤い嘴、身体は白だが胸周りを栗色の太い線が一巡りしているので正面から見る とそれがまん丸に見える。良く水面に逆立ちしているが、水底のカニや貝を漁って食べ るらしい。
 春近く、天降川の河口堰辺りに多くのカモたちが群れていた。その中にわずか数羽だが ひときわスマートなオナガガモがいた。セピア色の頭部はつややかで、白い首周り、そして ピンと長く伸びた尾羽が特徴。ヒドリガモやカルガモの中にいると、栗毛のサラブレッド のように駿として見えた。
 多くのカモは大陸や日本列島の北で繁殖し、冬鳥としてこのあたりにも飛来してくる という。だが、ここに留まる個体も多いのではないか。鳥インフルエンザなどとは無縁で あって欲しいものだが、この海岸ゾーンが冬鳥達を一手にひきつけてくれている形も何が しかその拡散に役立ってくれればとも思う。

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【5 ミサゴの襲来 】

 突然、コガモの群が一斉に飛び立った。その少し上空を一線に滑空する鳥の姿があった。ミ サゴだ。
 トビはこんな飛び方はしない。しかも腹が白く精桿な顔つきだ。暗褐色のマントのような羽 で身を包み、電柱の上などにとまっているとトビかと思うが、頭も足も白いので区別できる。
 ミサゴは魚類を餌食とするめずらしいタカだ。タカの仲間にしては大きい体つきだ。この 海岸線の鳥類では最強だろう。足の大きい成鳥と小さめな個体を確認した。上空から魚影を 狙って、ホバリング(空中静止)しながら突然急降下して水中ヘダイビング。大きな足で魚をむ んずと捕まえて飛び上がる。環境庁が危急種にしているらしい。
 ミサゴの英語名はオスプレイ。そう、あの軍用機はミサゴの名前を持つ。名前どおりの飛 行性能だが人の技術はタカほどになれるのか・・・?ともかく猛禽(もうきん)も養えるこの海岸線の 豊かさは、すでにオスプレイも配備済みということか。

【6 イソヒヨドリの棲みか】

 風の無い冬の日の堤防にひょっこり顔を見せてくれる、全身ブルーグレーでお腹だけ 赤茶色のひょうきんな鳥。その綺麗さに、初めて出合ったときは思わず南日本新聞の野 鳥コーナーに名前を尋ねてしまったのだった。ツグミの仲間だがイソヒヨドリという。 ヒヨドリではないらしいが、古くから美しい鳴き声で春を告げてくれることからその名 が浸透しているのだろう。
 温かい年末年始だったこの冬は、堤防上で何度も出合った。5メートルほどの距離まで 近付いても逃げないことが多く、一度逃げてもまた近くへ戻ってくる。嘴や羽の色で個体 の老若までわかるほど。
 春になると国分や隼人の街中でも、雄の笛を吹くようなすばらしい鳴き声が聞けるよう になった。一部が街に進出し営巣するようになってきているのだ。繁殖期だからだろうか、 街のイソヒヨは海岸のそれより外見や色味が洗練されているように見える。一昨年は我が 家の近くで営巣したらしく、雌雄の求愛から幼鳥への餌やりまで見ることが出来た。

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【7 街や里山に飛来する野鳥たち】

 鳥類ほど野生で身近に目に触れる小動物がわれわれの周りにいるだろうか。最近に なって、飛翔する彼らを見極め切れないもどかしさを、トオメガネをつけた最新カメラが 叶えてくれ始めた。ちょっと気を配れば、河原や田園、また庭先でも様々な鳥たちにめぐ り合うことが出来るのだ。
 庭に実のなる木は植えない方がいい・・・という言い伝えを聞いた。実に集まる鳥たちが いらぬ病気を運んでくるという漠然とした経験を昔の人は持っていたのだろう。ヒヨドリや ツグミ、ムクドリやカラスの集団が群れ来るさまは御免被りたいが、季節の声となって人の生 活にも溶け込むスズメサイズの小禽(しょうきん)類がいろいろといることも知っておきたい。
 代表的な声の持ち主は、ケケケケとけたたましい声で秋と春を告げるモズ、そして春には カワラヒワもピルルルルーといい声で鳴き空を渡る。梅が咲くとメジロが小声で騒ぐし、時 折耳慣れぬ声がすると思ったら、シジュウカラやヤマガラだ。雄雌どちらも可愛らしいジョウ ビタキはそっと近くの枝にいたり、アオジは時折植え込みの下で餌を探している。また、ちい さなキツツキのコゲラは公園や庭木に張り付いて、虫を探しながらジージーと鳴く。
 街を少し出て春山の春、スポーツ公園のある道脇に立つ高木に、様々な鳥が羽を休めてい く。顔の黒いウソを見かけたときはその風貌に驚いた。ホオジロも雌雄で姿を見せ、空に向 かって精一杯鳴く姿がある。ジョウビタキもヤマガラもカワラヒワもそこで見かけるから、街 を訪れる鳥達の出所は街を取り巻く山々だとわかる。時にキジが開拓された耕地を歩いていた り河原にひょっこり現れたりするのだ。

【8 川面を渡る鳥達】

 天降川の中流域に入ると、川辺の鳥たちの出番だ。長く名の知れなかった葦原の小禽はノビ タキだと知った。川沿いにはオオバン、バン、カワウ、イソシギが山間部の入り口まで生息域を伸 ばしている。
 水天淵の井堰は明治からの長い歴史を持つが、その周辺の環境、川魚の豊かさがその一帯を 野鳥の宝庫にしていった。ほぼ一年中、このあたりで虫などを餌としているのは街でもおなじみ セキレイ、キセキレイ。それにほぼ真っ黒に見える個体はカワガラス。岩の間をぴょんぴょん跳び ながら、小さい虫などを探して、このあたりで営巣している。目を閉じるとまぶたが白いのが面 白い。
 稚鮎が川を上る春先になると、ササゴイはじめアオもシロもサギの仲間がいっせいに水面をに らむようになった。いっぽうで狩の名手はヤマセミやカワセミだ。ヤマセミは電線や木の梢から 魚影を見定めると、ホバリングしながら急降下、大きな嘴で獲物をしっかりくわえて近くの岩場 へ飛び移る。
 カワセミもまた水面1~2メートルの岩の上から高精度のダイビングで、身体に見合った小魚 をくわえて岩場に上がる。大きさこそ違えヤマセミもカワセミもこのあとの仕草が同じだ。目を 白黒させながら身体をひねって取った小魚を何度も足元の岩にたたきつけるのだ。そうしてくた くたにして頭から飲み込む。雛がかえったらしい子育て中のカワセミは、夫婦してその獲物をせっ せと巣へと運んでいた。
 昨年6月、偶然に巣立ちしたばかりのカワセミの幼鳥が、堰の澱みの小さな岩の上でまるで蝶 のように飛び跳ねている姿を見た。その直後には親鳥がその幼鳥に餌を与える姿もあった。

【8 オシドリ達を守れるか】

 昨シーズン最大の出合いはオシドリたちの越冬だった。30羽ほどの群が水天淵一帯の木の実 などを食しながら、折々に愛らしく美しい姿を見せてくれたのだ。だが今年はやっと4~5羽。 オシドリは他の水鳥より臆病だ。カモの仲間で、カルガモより二まわりほど小さい。雄の特 徴的な冬羽は美しいが、雌もそれなりに迫力がある。この場所で留鳥にならないかと期待した が春にはすっかりいなくなってしまった。
 水天淵で、県の不法投棄監視員と出会った。国道223号から入り込んだ道だから、車通り の少ないところを狙っての行為の取締り。その会話する場所の先にもオシドリたちがいたのだが、 彼らの休む岩場に放棄された塵屑が引っかかっていたり、瀬に自転車が流れ着いていたり。この 環境の希少さを、自然環境のすばらしさを標榜する霧島の人々はもっと理解して欲しいものだ が・・・。それにはまた、オシドリたちの来訪を待つしかないのだろうか。ミナミノフクロウは水天 淵発電所周辺の河原を「おしどり沢」と勝手に名付けて、将来に期待している。


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