野井倉台地の開発の仕方  1996年 10月

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◎ トンネル・用水路工事をする人たちの苦労や大変さをつかませる。      


1 トンネルの大きさを調べ,その実感を持たせる。

  本時のおおまかな学習内容をあっさり伝えて,授業に入った。

説明1 今日は,このトンネルと用水路を作った人たちのことを考えていきます。
   (『工事をした人たち』と板書)                   
指示1 まず,次のことを調べてノ−トに書いてもらいます。(下を板書)   
   
   
   

トンネルの大きさ  @ 全体の長さ A 高さ B はば     


    必要な場合は,図を書いてもいいです。時間は,3分です。      

  この指示により,子どもたちは資料「わたしたちの鹿児島県」のどこにそれが書かれ
 ているかを探し始めた。(資料収集能力@)
  まだ,見つけられない児童もいたので,作業指示後30秒ほどしてから,作業中の一
 人の児童(郁乃)に「どこにそれが書かれているか」を尋ねた。彼女の「P78に書い
 てある。」との声に,今まで見つけられなかった児童も,「あった,あった。」と言っ
 て,ノ−トへの記入を始めた。(支援@)
  2分ほどしてから,一人の児童(辰太郎)に黒板に書くよう指示した。板書内容は以
 下の通り。(技術@)

1 トンネルの大きさ                           
 @ 長さ(全体)→11,358m                    
 A 高   さ →245cm                      
 B は   ば →240cm                      

  3分後,「鉛筆を置きなさい。」と言って,作業をやめさせ,全員を黒板の方に向か
 せた。(技術A)そして,全員でトンネルの大きさを読み上げて,その大きさを確認し
 た。
  以上の作業により,トンネルの大きさを「数値的」には知ったことになる。しかし,
 それが実際どの程度の大きさをいうのか,また指しているのかを実感は持てていないだ
 ろう。
  そこで,この数値と「自分たちの身の回りの事物」や「日ごろの経験」を重ね合わせ
 ることにより,子どもたちにこの「トンネルの大きさ」を実感させたいと考えた。今か
 から記していく指示と説明によってである。

指示2  今から,このトンネルの大きさがどれだけなのかを実際に体験してもらい
    ます。全員廊下に出なさい。                     

  私は,1m物差しを持って,児童を一緒に出た。
  まず,トンネルの横からである。「245cmがどれだけあるか,計ってみます。」
 と言って物差し横にし,245cmを計り取った。すると,廊下の幅を約30cm越え
 た。教室の中まで入り込んだ幅になった。
  次は,高さである。物差しを縦にして240cmを計り取った。天井の下30cmま
 での高さになった。私の身長は174cmであるが,それのおよさ70cm上をいく高
 さである。
  最後は,トンネル全体を合わせた長さである。これは,実際に物差しでは計り取れな
 いので,次の説明をして,その長さのすごさに実感を持たせようとした。

説明2  最後にトンネルの長さです。11〜13kmあるということでしたね。こ
    の4年生教室の廊下から6年生の教室の廊下の方を向きなさい。     
     ちょうど,この廊下の大きさのトンネルが実は,ここから「末吉」や「志
    布志」まで続いている長さになるのです。               
     この廊下は,6年生の向こうの出口で切れていますが,それが末吉や志布
    志までずうっと続いていくわけですね。                
     当時の人たちは,これを実際に掘っていったんです。すべて手作業でやっ
    たわけです。                            

  このあと,1人の児童(裕樹)を指名し,次のことを指示して,その場所でトンネル
 を掘るまねをさせた。

指示2  裕樹君,6年生教室に向かって,トンネルの掘っていきなさい。ただし,
    君の目の前は,壁と思いなさい。壁をこわして,トンネルの穴を掘っていく
    のです。当時の人になったつもりでやってみなさい。          

  本人は,くわやつるはしを振り上げたり,振り下ろしたりするような動作をしながら
 トンネルを掘る様子をやっていった。その様子を見て,私はある発問がひらめき,次の
 ことを他の子どもたちのに問うた。

発問1 裕樹君のトンネル工事の仕方は,これでいいですか。          
指示3 おかしいと思った人は意見をいいなさい。               

  実は,このとき本人は,1回振り下ろしては進み,1回振り下ろしては進みしていた
 また,あるときは2歩も3歩も1度に出るような出るような進み方をしたり,1直線だ
 けを掘り進むようなことをしたりしていた。しかし,実際の工事では,こんなに簡単に
 掘り進められるわけがない。そこで,この発問をしてみたのである。
  このことに子どもたちは,よく気づいてくれた。下がそのとき出た意見である。

・ 裕樹君は簡単に前に進んでいったけど,目の前には固い岩や土があるのに,そん
 なにすぐは,前に進めるわけがない。                    
・ 目の前は壁なのに,1か所だけ掘っていって,どんどん前へ進んでいった。そこ
 だけしか掘っていないことになる。                     
  上も正面も掘らないといけない。                     
・ すぐには掘ることはできない。1つのところを掘るのに,そうとう疲れると思う

  この後,本人にもう1度挑戦させた。
  今度は,さも難儀そうに大変そうに,下だけでなく目の前のあらゆる箇所を掘る動作
 をした。そして,なかなか掘り進めない様子までやって見せた。

 工事の使った道具とその使い方を考えさせる。

 @ 道具の名前をノ−トに書かせる。

  次に,下のことを言って,道具について考える学習に移ることを伝えた。

説明3 今,裕樹君がやったように,当時の人たちは,手作業でこの工事を進めて
   いったですね。次は,このトンネルを掘るのに,どんな道具を使ったか。ま
   た,そのときの工事の仕方はどうだったかを考えます。         
指示4 教室に戻りなさい。                        

  全員がいすに座り,次の学習の構えができたのを確認後,次の指示。

指示5  では,どんな道具を使ったのか,ノ−トに道具の名前を書き出していっ
    てもらいます。                          
     次のように書いていきます。(下のように板書)          
   
   
   
   
   
   
   

《工事に使った道具》                      
                                
 @         C        F           
 A         D        G           
 B         E        H           






     時間は,2分です。                       

  この道具については,それがどこに書いてあるか子どもたちはすぐに資料から見つけ
 出すことができた。道具の絵が大きく資料に書かれていたためであろう。
  作業途中で,早目に書けた児童(裕樹)に黒板に書くよう指示した。板書は,次のよ
 うになった。

《工事に使った道具》                           
                                     
 @ もっこ     C み                       
 A くわ      D じょれん                    
 B またぐわ    E かけや                     

  作業途中,書き終わった児童には,「それぞれの道具が,どんな使い方をするのかそ
 の使い方を考えるように。」と指示した。これは,何をやっていいのか分からないとい
 う「空白の時間」をどの子にも作らせないという考えによるものである。(技術A)子
 どもは,「空白の時間」つまりブランクができると,授業中たるんでしまう傾向にある
 からである。
  全員が作業を終えたのを確認後,次の発問。

発問3  実は,あと2つあるのです。絵では書かれていませんが,P81のどこ
    かにそれがのっています。                     
     さあ,どこでしょう。                      

 子どもたちは,すぐに写真の道具に気づき,「つるはし」「金づち」の名前をあげて
くれた。

 A 道具の使い方を考えさせ,発表させる。

  次にこの道具の使い方について考えさせた。
 「当時の人は,この道具を使ってトンネルなどを掘ったんですね。」だけで終わってし
 まったら,芸がない。実は,ここでの学習活動のねらいは,道具の使い方を考えたり,
 実演したりする中で,当時の人たちの作業内容を疑似体験させることにある。そして,
 そのような体験を通すことにより,子どもたちが,当時の人たちの工事中の心情を考え
 たり,その大変さを理解したりするためのきっかけになることをねらっている。
  つまり,「道具の名前」を書かせたのは,上のようなねらいにつなげていくための「
 伏線」なのである。それは,「トンネルの大きさを数値で書かせ,実感を持たせた」の
 も,同様である。(「トンネルの大きさ」は伏線@,「道具の名前」伏線A,これから
 記す「道具の使い方」は伏線Bと言えるのであろう。」)
  元と戻す。次の発問と指示をした。

発問4  では,それぞれの道具は,どのように使われたのでしょう。     
指示6  こんなときに,このように使われた,ということを,グル−プになって
    考えます。(2回くり返した)(『こんなときに,こう使った』と板書)
     では,グル−プを作って,話し合いなさい,時間は2分です。    
     その場で実際にやってもいいです。                

  グル−プが出来上がりると,子どもたちは早速その使い方を考え始めた。
  資料を見ながらじっくり考える子,友だちと絵を指しながら話し合う子,席を離れて
 その場で実演する子と,それぞれであった。
  また,友だちの実演を見ながら,意見を言う子どももいた。
  ここで,のこり時間が3分となった。残念である。
  子どもたちには,次のように言った。

説明4  残り時間3分となりました。残念だなあ。ここからが,おもしろいのに
    なあ。                              
     今まで,「トンネルの大きさ」を考えたり,「道具の使い方」を考えた
    りしてきたけど,ここからがおもしろいのです。           
     この2つのことをもとにして,今から考えることがとってもおもしろい
    のです。                             
     今までのは,実は,それまでの前置きなのです。ここからが本番なので
    す。                               

  時間がないので,すぐさま,使い方を子どもたちにしてもらうことにした。次のよう
 に言って,挙手をもとめた。

指示7  では,簡単なものからやってもらいます。             
     実際に使い方を体でやりながら,「こんなとき,こう使った」というふ
    うに説明してください。                      
     では,くわからやってもらいます。                

  子どもたちはやった説明は以下の通り。(ア…やった動作  イ…説明)
  そして,次の発問。
   @ くわ  ア くわを振り上げたり,振り下ろしたりする動作をした。
         イ 下の土をほったり,穴をあけたりする。
           壁になっている土をこわす。
   A み   ア しゃがんで「み」を縦にし,何かをそれに入れる,そして運ぶ動
          作をした。
         イ くわなどでほって出てきた小石や土を,これで集めて運ぶ。
   B もっこ ア 両側に何かを積んだり,入れたりして,かついで運ぶ動作をした
         イ もっこの両側に土を積み,それを持ち上げ,運ぶ。
  もっこの使い方を実演し,説明したのは裕樹君である。説明が終わったあとも,本人
 にはそこにまだととどまるように言った。ある発問がひらめき,そのことを子どもたち
 に聞きたかったからである。

発問7 裕樹君は,今もっこの両方に「土」を積みましたね。         
    積んだものとして,他にどんなものが考えられますか。        

  挙手を求め,子どもたちから出た意見は以下の通り。

  @ 小石  A 大きめの石  B 小石と砂と土の混じったもの  C砕けた岩

  意見が出るたびに,「それを両方に積んで持ち上げたんですね。」と,くり返し言っ
 た。
  私がこの発問を中途でしたのは以下の考えによる。

 もっこの両側には,いろいろなものが積まれたであろう。そして,それはある程
度の量が積まれると,持ち上げる際,また持ち運ぶ際,相当な重さになったことで
あろう。肩にズッシリとくる重さだったと想像できる。            
 ところで,土でも十分な重さであろうが,これが砕けた岩や小石だとすると,そ
の重量感は,もっと増したはずである。それを積んで持ち上げたとしたら………,
と積まれるモノが発表されるたびに,その重量感を想像したのではないか。   
 つまり,この発問をすることにより,そのような思考が促されることを期待し,
手作業や肉体労働の苛酷さをより強く実感させることできると思ったのである。 

  そして,再度もっこの使い方を本人に実演してもらい,その後下のことを子どもたち
 全員に聞いた。

発問8 裕樹君にもっこの使い方をやってもらいましたが,そのやり方は,あれで
   よかったでしょうか。                        
    十分だと思った人?(なし)やり方で意見のある人?(多数)     
    では,意見のある人は起立しなさい。                

  子どもたちから出た意見は,以下の通り。

  @ もっこに小石を入れるときに,2,3回で入れ終わった。もっこの両側をある程
   度はいっぱいにしないといけない。
    だから,何回か積む作業を多くしないといくない。
  A 重たい岩や小石がもっこの両側にたくさん載っていて,重たいはず。
    そんなに簡単には,すぐには持ち上げられないはず。
    もっと重そうに持ち上げなくちゃいけない。
  B 裕樹君は,「ホッ,ホッ,ホッ。」と楽そうに走り回っていた。それから,
   すぐに前に進んでいた。
    相当重たいもっこを,そんなふうにかつぎ回るのは,おかしい。もっと,き
   つそうに,重そうにしないといけない。

  子どもたちは,もっこに積まれた重量感をこのときに感じ取っていたようである。「
 それをもし持ち上げるとしたら」「それをもし抱えたとしら」「それをもしかつ回った
 としたら」というように,実際の場面に当てはめてその重さを想定していた。言い換え
 れば,「もし………だとしたら,………だったであろう。」という思考により当時の人
 たちの手作業の様子を頭に思い浮かべたようである。
  この後,「つるはし」「のみ」の使い方を,同様に実演してもらい,その使い方を説
 明してもらった。このときの実演と説明は以下の通り。

   つるはし ア 正面の壁に向かって,つるはしを振り上げて,打ちつける。
          下の地面に向けて,つるはしを振り下ろす。
        イ 岩や石の混じった硬い土を打ち壊すときに,使った。
          くわでは掘れないもののときに,つるはしを使った。
   のみ   ア 金づちらしきもので,カンカンと壁に向かって打ちつける。
        イ 硬いものをのみにより,打ち崩す。
          トンネルの周りをのみできれい整える。
          いったんのみで割れ目をつけ,その割れ目につるはし入れ込む
         ことで岩が砕くことができる。
  途中,つるはしを振り下ろしているときに,「どんな音がしますか。」「どうして,
 そんな音がするのですか。」も問い,作業しているときの様子や工事の対象でる岩や壁
 の固さ加減が感じられるようにした。

 工事をする人たちの苦労や大変さを考え,その実感を持つ。

  さて,本時の中心である。今までのいくつかの学習活動は,全てここでのより具体的
 な思考を促すための伏線である。
  ここでは,工事についてその「道具や作業内容」から「作業をする人たちの心情に考
 える視点を移す。
  今までに子どもたちは,トンネル工事に対する様々な外部情報を得,それを自分の内
 部情報として蓄えてきている。これにより具体的な思考が促されることであろう。
  次の発問をした。

説明9  今みんながやったように,当時の人たちは,全て工事を手作業でやった
    んですね。                            
発問9 では,当時の人になってみてください。この工事,次のうちどうだったと
   思いますか。                            
                                     
   1 とても大変だった  2 少し大変だった  3 そうでもない   

  それぞれ挙手を求めた。全員1の「とても大変だった」に手を挙げた。
  そして,次にこの大変だった中身を考えさせた。

発問10  では,どんなことが大変だったと考えられますか。        
指示8  3つ以上考えて,ノ−トに書きなさい。             
     こんなときに,こうなったとか,こうだったとかいうように,できる
    だけ詳しく考えます。時間は5分です。              

  この発問・指示により,子どもたちは一斉に考え始めた。
  途中,豊君から「図を書いてもいいですか。」という質問があり,「とってもいい
 ことです。図を書いた方が考えやすく,伝えやすければ,それが1番です。図を書く
 と,それを見た人が一目で何のことかが分かっていいですね。」と言って,図を書く
 ことを勧めた。
  その後,1つ書くたびに持ってこさせ,声かけや称賛(評価)をしながら,見てい
 った。
  予定の5分が過ぎたが,子どもたちから「もっと考えさせて。」と,要望があがり
 時間を5分延長した。
  以下は,子どもたちが考え出したもの全てである。各列ごと起立させ,その内容を
 発表させた。(「○列起立。前から順に発表しなさい。発表が終わった人は座ります
 また,前の人が座ったら,次の人は発表します。」と言って,発表させた。そして,
 一周りした後,「まだある人起立。全部言われたら座ります。」と言って,全員の考
 えを全て出させた。)

1 手作業だったから,つかれたかもしれない。               
2 シラスだから,雨がふったとき,かべがくずれてやりなおしになったと思う。
3 つるはしでいわをけずっているときに,いわがなかなかわれなくて大変だった
 と思う。                                
4 山の中の遠くへ入ったら,岩を運ぶのがつかれたと思う。         
5 岩を運んだら,きん肉つうになった。                  
6 大きい石を運んだら,足に落ちたりした。                
7 のみでくぎをうつときにはずしたら,手をいためた。           
8 つるはしで手をすべらせ,足にささった。                
9 山という高いところでの工事だったため,空気が少なくいきがやりにくかった
10 石にこけて頭をうつ。                         
11 石が落ちてきて,ふみつぶされる。                   
12 けがをしたかもしれない。                       
13 死人が出たかもしれない。                       
14 きん肉つうになったかもしれない。                   
15 人がすくないから大変だったかも。                   
16 入口がうまってしまったときがあったかもしれない。(がけくずれなど)  
17 こう水だったときが大変そう。                     
18 ほりすぎて,こわれたときもある。                   
19 もっこの人が入口まで持っていって,また来るのが大変そう。(トンネルは長
 いから)                                
20 トンネルの中は,真っ暗だから工事をするのが大変そう。         
21 岩が落ちてきたら,大変そう。                     
22 岩がくずれて,死人が出ることがあったかもしれない。          
23 土にシラスがまざっているから,どしゃくずれがあり,工事がふりだしにもど
 ったかもしれない。                           
24 とくにこう水のとき,水が急に出ておぼれて死にそうになった人がいたかもし
 れない。(用水路工事)                         
25 シラスはかんたんにくずれるから,できてもくずれるときがあったかもしれな
 い。                                  
26 雨の日に,工事でくずれたかもしれない。                
27 けがをしたかもしれない。                       
28 くずれだしたら,一気に全部くずれだして,死人がたくさん出たかもしれない
29 道具のつるはしを思いっきりふって,後ろに人がいて当たって死んだかもしれ
 ない。                                 
30 道具をトンネルまで入れるのが大変だったかもしれない。         
31 水がいきなり出てきて,おぼれて死んでしまう人がいたかもしれない。   
32 風の強いときは,ほこりやすなが飛んできて目がいたかった。       
33 もっこでかたがはずれそうだったかもしれない。             
34 つるはしをうちつけるとき,手がしびれたかもしれない。         
35 ランプが消えたら,何も見えなくなってしまったかもしれない。      
36 朝起きて,工事をかいさんしたところまでまた行くので,体力を半分とられた
 ことがあったかもしれない。                       
37 工事をしていると,いわが落ちてきたかもしれない。           
38 雨がふったらシラスが流れて,また最初に(工事が)もどってしまったかもし
 れない。                                
39 つるはしを使ったときにつるはしのはしが人に当たって,けがをしたかもしれ
 ない。                                 
40 どうしてもこわれないいわがあったから,そこで手まどってしまったかもしれ
 ない。                                 
41 急に雨がふってきたら,にげるのが大変だったかもしれない。       
42 石や岩がかたくてほるのが大変だったかもしれない。           
43 もっこにのせた石を持つのが重たかった。                
44 重たい岩や土をもっこで300mぐらいのトンネルの中から,300mぐらい
 歩いて大変だったかもしれない。                     
45 雨や台風で,トンネルの中がくずれて大変になった。           
46 人がけがして,人数が少なくなり,(人手が足りず工事が)大変だったかもし
 れない。                                
47 使われる道具がこわれて大変だったかもしれない。            
48 小っちゃいことから大きなことまで,きちんとしないといけないから大変だっ
 た。                                  
49 家から坂をのぼって,何キロもはなれているトンネルまで行くのが大変だった
 かもしれない。                             
50 あなをほっていくと,目にごみが入って,大変だったかもしれない。    
51 おじさんたちがほっているとき,いわが足に落ちてきてけがをした。    
52 くわやまたぐわ類でけがをしたこと。                  
53 いわや石などがたくさんあって,工事がしにくかったこと。        
54 いわや土をもって行くとき,とても重たかったこと。           
55 すべて手さぎょうだったので,とちゅうで道(ほる所)をまちがえたこと。 
56 何年もかかっから,ふくがぼろぼろになったこと。            

 以上により,子どもたちはそれぞれ,工事する人たちの苦労や大変さをイメ−ジでき
たことであろう。また,様々な状況におけるそれを,他の児童の考えを聞くことにより
感じ取ったであろう。また,様々なケ−スが一人一人の頭の中に追加されていったこと
であろう。

 う。これは,「量的な広がり」を促した学習活動といえる。
  次に,子どもたちから出た「死んだ人もいたかもしれない。」という意見を取り上
 げ,このことについて,次のように聞いてみた。

説明5  さっき,真澄さんが「死んだ人もいるのではないか。」ということをい
    いました。このことについて,少し考えてみます。          
発問9  さて,工事をしていて,死んだ人や病気になった人がいたでしょうか 
    どうでしょうか。                         

  死んだ人,病気になった人,それぞれについて挙手をもとめた。全員が「いたと思う
 」に挙手した。
  実は,上の発問には,次のような意図があった。

1 苦労の中でも,より深刻な問題,つまり工事が原因による「死」や「病気」へ
 考える局面を限定する。                         
2 1により,子どもの思考は「質的な広がり」が促されるであろう。     
3 1,2のことから,児童は工事の苦労をより強く感じることになるであろう。

  この後,いたと考えた理由,あるいは,その具体例を尋ねてみた。
  下がその意見である。

《病気になった人について》                        
 @ 工事がとても大変だったので,それがもとで,胃潰瘍になり,胃に穴が開い
  た人もいたのでないか。(精神的にまいってしまった。)         
 A 工事が何年も続いたと思う。それがもとでつかれがたまり,とうとう病気に
  なったのではないか。                         
 B トンネルの中は,空気が悪かったかもしれない。あまりよくない空気をすっ
  て,病気になった人もいたのでないか。                 
 C その他                               
                                     
《死んだ人について》                           
 @ がけくずれなどで下敷きになり,それで死んだ人もいたのではないか。  
 A つるはしなどが顔に当たり,打ち所が悪くて死んだ人もいるのではないか。
 B その他                               


  最後に,つぎのようなことを「語って」,この授業を終えた。

説明6 そんなこともあって,工事から離れていく人もいたんですね。     
    でも,野井倉の人たちは,この工事をあきらめない。         
    そして,野井倉の台地に初めて水が引けたのが,工事が始まってから約60
   年後のことでした。20歳だった甚兵衛さん,そのときには80歳になって
   いました。                             
    出来上がるまでの60年間,みんなが言ってくれたように,大変なことが
   たくさんあったでしょうね。いや大変なことの連続だったかもしれない。 
    ここまで,甚兵衛さんたち野井倉の人たちを頑張らせたのは,何だったの
   でしょうね。(しばらく間を置く)                  
    では,その後野井倉台地がどう変わったのかを次の時間に勉強します。 

  この「語り」はまとめではない。工事の苦労をより強く感じさせるための最後の詰め
 つまり教師からの情報提供である。

 工事が終了するのにかかった期間を,「60年という時の長さ」と「人間の歳の推移
(20歳から80歳に)」の2つ言い方で示すことにより,児童の苦労の感じ方の強度
は増すであろう。
 それは,「あんな苦労が60年もあったのか。」また「20歳だった甚兵衛さんが,
80歳になるまで,工事は続いたのか。」と,当時の人たちの苦労を,時の長さに乗せ
て感じることによる。
 これにより,子どもたちは,野井倉台地の開発の苦労について,それぞれの感じ方に

 によって感慨を持つことであろう。