赤壁の役〜その三〜







「馬超殿、待たせた!」
兵が6000になったところで、希代之隊が馬超隊を沈静化させた。
「おおお、軍師殿! かたじけない!」
心から感謝の言葉を発した馬超。
だが、馬超隊は周囲を敵部隊に囲まれ、身動きが取れない状況だった。
「ええい、道は自ら切り開くのだ!『突撃』!」
馬超隊の突撃で、呂蒙の弩兵隊が大きく崩れた。
しかし、敵の数は多い。
馬超の沈静化に成功したとはいえ、安堵している暇はなかった。
馬超を救出するため、危険なほどに前進していた希代之隊の前に現れたのは、「奇襲」攻撃を得意とする呂蒙。
「希代之! 呉の呂蒙を知らぬや!」
呂蒙の「奇襲」攻撃の前に、希代之隊の兵たちは大混乱に陥った。
「敵の総大将と参軍は我らの手の内にある! 押しつぶせ!褒美は思いのままぞ!」
韓当は興奮して叫んだ。
血に餓えた獣のように、紫桑軍は馬超と希代之の軍への攻撃を反復した。


「援軍を!馬超隊と希代之隊は敵に包囲されております!」
何度目の伝令だろう。
これまで「承知!」とだけ答えていた馬参は、ついに伝令を怒鳴りつけた。
「同じ命令を何度も言ってくる余裕があるなら、貴様も戦え! こっちの状況は見てわからんか!」
馬参と廖衛、そして馬騰隊は、正規軍と増援軍合わせて5個部隊と戦っていた。


孫策の増援軍2部隊が、長江へ入った。
川から南下、再上陸して馬超、郭図公則隊を攻撃するつもりだ。
「堰を崩し水を放て!」
狂喜して叫ぶのは袁奉。
「敵軍を激流に呑ませるのだ!」
戦場に到着してから突貫工事で済ませていた準備がここで生きた。
激流に飲み込まれた朱治と賀斉の隊は、大混乱に陥っている。
「よし、成功したな。これより我が隊は、馬超隊の救出に向かうぞ!」
「せっかく打撃を与えたあの敵を見逃すのですか?」
副官が驚いて叫んだが、袁奉は首を振った。
「間もなく長沙軍が到着する。ヤツらは涼公に任せればよい。今は馬超隊だ」


戦場は二個所に分れている。
北では馬参、廖衛、馬騰の3部隊が呉の5部隊と交戦し、南では馬超、希代之、郭図公則、町費、袁奉、馬岱の7部隊が、呉の7部隊と戦っている。
呉の残り2部隊は、長江で混乱状態にある。
敵にもかなりの損害を与えている。これは事実だった。
ただし、武将を捕らえるまでにはいたっていない。傷ついた馬超隊は、依然として敵の包囲下にある。


突撃、撹乱、奇襲、斉射、矢嵐……なんとか混乱状態となることは避けられているものの、孫呉軍の攻撃の前に、次々と馬超の象は力尽きていく。残り1700。
呂砲が到着すれば、計略「医術」によって再び武を振るうことも可能だが、まだ援軍は姿を現さない。
そして呂砲のいる方向へ逃げようにも、周囲は完全に取り囲まれている。
おそらくあと2部隊、もって3部隊の攻撃で、自分は敵に捕われるだろう。
決断を下す、最後の機会だった。
総大将として紫桑を落とす。その武功でもって、第三軍団長候補に名乗りをあげる。
そんな夢が、文字通りの「夢」に終わろうとしている。
馬超は唇をかみ締めた。苦い血の味がする。


「邪魔よ、どきなさい! 邪魔よ、どきなさい!! 邪魔よ、どきなさーい!!!」
雲南の女兵士が、槍を振り回しながら象を疾駆させる。
生き残った象部隊も、最後の力を振り絞って敵をなぎ払う。
その勢いに押され、紫桑軍にわずかな隙ができた。その隙をねじあけるように馬超隊は包囲を突破した。


  
馬超は江陵へ退却しました


「馬超を取り逃がしたか……まぁ、仕方あるまい」
息を整えながらつぶやいた孫権は、標的を希代之へ移す。
郭図公則によって沈静化していた希代之隊だが、馬超を包囲から救出すべく、最前線に残ったままだった。
「『撹乱』攻撃。目標は希代之」
孫権の命令一下、森林にいた希代之隊に対し、木の陰などから次々に孫権の兵が襲いかかる。
馬超退却に歯噛みをしていた希代之は、再び自軍を掌握する術を失った。
「よーく狙えよ。落ち着いて……いいか? よーい……射ーっ!」
呂岱が再び「矢嵐」を放った。目標は郭図公則。
涼第一軍は総大将を失い、軍師と副軍師が混乱状態となっている。
最高の知力を誇る希代之と郭図公則を沈静化できる武将は、第一軍にはいなかった。


「おっ、あれは楼船ではないか」
弾んだ声で呂砲。
その視線の先には、袁奉の「激流」で行動不能に陥った孫呉の2部隊があった。
「第一軍もなかなか頑張っているようだの。よし、あの2部隊は甘寧と関平に任せろ。吾玄、張任はわしとともに上陸、第一軍と共同して呉軍を殲滅するぞ」
涼公の旗艦「雪風」(わかる人にはわかる名前)は、ご機嫌な航海を続けている。
しかし、旗艦「永安」から上陸した吾玄が目にしたものは、おびただしい死体だった。
吾玄は眉をひそめた。死体に、ではない。
死体の割合が涼軍と呉軍、ほぼ同数であることに、だ。
ハッとした吾玄は、部隊の行軍を急がせた。
「全員死ぬ気で駆けろ! 第一軍が危ない! 遅れた者は斬るぞ!」


ようやく上陸した呂砲の最初の言葉は「わーこりゃどういうこっちゃ!」だった。
自慢の象部隊はすでに戦場になく、陣形の乱れた郭図公則隊が敵の集中攻撃を受け、町費や袁奉が郭図公則の脱出口を作ろうと奮戦している。
「おぉぉぉい、郭図公則〜! これってどういうことよ!」
山騎隊20000に守られながら、郭図公則隊の元へ駆け寄る。
「見ておわかりになりませんか! 苦戦しているんですよ、苦戦!」
さすがに郭図公則も軽口を叩く余裕はないようだった。
「苦戦してるのはわしでもわかるわい……で、わしは何すればいい?」
「沈静化を……と言いたいところですが、あとちょっとで我が隊は全滅します! 『医術』をすぐに! それと東に希代之隊がいます。あっちも相当兵がやられている!」
「わ、わかった、『医術』だな……えーと『痛いの痛いのぉ……飛んでけぇ!』」
「私は幼児ですか!」
「怒るな。意外と効くんじゃこれが」
郭図公則隊は5000にまで回復した。
ただし、混乱状態のままである。
呂砲隊はなんとか針路を切り開き、希代之隊にも「医術」をかけた。
それでも希代之隊は2000余りに過ぎない。
「早く退却せよ! あとはわしらに任せるのだ!」
「お任せしたいのは山々でございますが……」
兵を叱咤し、剣を振るいながら希代之は言い返す。
「兵を沈静化させねばどうしようもありませぬ!」
その直後、太史慈の「斉射」と程普の通常攻撃で、希代之の姿は一瞬にして見えなくなった。
「おのれ、程普め! よいか、最悪この戦いに勝てなくてもよい! しかし、程普は必ず殲滅せよ! さすれば希代之を救うことができる!」
そう叫んだ呂砲だったが、自分の言葉に自信を持つことができなかった。
程普はまだ10000近い兵を有している。
伝令が駆け寄ってきた。
「北戦場にて、我が軍苦戦! 涼公におかれましては、友軍への『医術』をくだされんことを!」
呂砲はイライラしながら怒鳴った。
「ええい! わしはクリミア戦争のナイチンゲールか!」



呂砲@プレイ中
114000vs85000(189000vs149200)
13部隊vs13部隊(15部隊vs16部隊)
総兵力では負けていないが、12万いた第一軍は6万程度にまで減っている。
前の戦い……じゃない兵棋演習では、10ターン終了時は124000vs76000だったから、戦果で1万少なく、損害で1万多いことになる。
やはり象部隊が1部隊だけというのが効いている。
さらに11ターンとなり、正規軍の士気がガバッと下がった。
一番高いのが袁奉の62。それ以外の武将は、35前後。
対する孫策軍は95〜100。
こちらは総大将と参軍がいなくなり、策略「鼓舞」も使えない。




「優先度はどうでもよい! 全滅させられそうな部隊を集中攻撃せよ!」
北戦場を支えていた馬参が叫ぶ。
敵部隊を殲滅すれば士気は上がる。手後れになる前に少しでも士気を回復させねば。
標的は太史慈の弩兵隊2700。
「乱撃だ! 食らえ!」
弩兵隊は防御力が弱い。
重騎相手でも一撃あたり1000前後の兵を殺傷できる馬参の「乱撃」なら、まさにカモだった。
しかし、4回中3回攻撃を成功させたにもかかわらず、太史慈隊はまだ1000ほど生き残っている。
「士気の低下……かくも我が『乱撃』の威力を奪うか……」
馬参は愕然とした。


兵が逃げ出し始めた。
南戦場の郭図公則が、ついに沈静化されることのないまま、韓当に捕らえられたのだ。
正規軍の士気は、袁奉を除いて30を切っている。
「殿下、もはやこれまでにございます! 速やかに退却を!」
そう進言してきたのは吾玄だ。
しかし、呂砲は躊躇した。
「希代之と郭図公則が捕らえられたままだ! せめて程普と韓当を倒すのだ、さすれば両軍師は解放される……」
「敵は十分な兵力を有しております。それに士気も格段に高い。このままではさらに捕らえられる武将も出てきますぞ!」
「…………やむなし! 許せ、希代之、郭図公則! つーか孫策の配下にだけはならんでくれよ!」



  
攻撃側呂砲軍は退却しました



縛り上げられた希代之と郭図公則は、徒歩で紫桑城へ移動させられた。
捕虜検分は城で行われるようだ。
城に近付くと、2人はさりげなく城門前の地形と城門の様子を記憶に留めた。
城内に入っても、兵の動きや町の様子を見ておく。
やがて、両軍師は低い声でささやき合った。
希代之「如何に思う?」
郭図公則「別に敵部隊を殲滅せずとも、戦さで勝利を収めることはできる、ということだ」
希「どうやら同じ存念のようだな」
郭「そのようだ」
希「だが、どうせなら徹底的に敵兵力を潰したい。そうすれば、江夏攻めも楽になる」
郭「やり方次第だな」
希「どうする?」
郭「賭けになる」
希「うまくいけば、補給が切れる前にかたをつけることもできようが、悪くすれば、また兵が逃げ出す、か」
郭「そいういうことだ」
希「際どい策だな」
郭「しかし、試してみたい策ではある」
希「謀士として腕が鳴るか?」
郭「いやいや、我が軍には希代之という立派な軍師がいる。それがしが出る幕などあるまいよ」
希「そうであろう。貴殿が目指しているのは軍師の座ではない。軍団長だ」
郭「何のことやら……」


希代之、郭図公則の両将が解放されたという報に、涼公は狂喜した。
「いや〜よかったよかった。おぬしらが孫策の配下となった日にゃ、速攻でリセット……じゃない、釈明会見……じゃなかった、とにかく何とかする腹積もりであった」
大喜びする涼公に、希代之は慇懃に答えた。
「参軍として殿の期待に応えることができず、さらには敵の虜となって涼の威信を貶めたこと、死をもってしても償えぬ不始末なれど、まずは殿の御裁断を得ようと、敗残の身ながら戻ってまいりました」
「さようなこと申すな。あれはわしが悪かった。最初の兵棋演習通り、象部隊を3部隊投入しておけばよかったのだ。おぬしら将兵に咎はない。もう言うな」
「もったなきお言葉……して、馬超将軍は?」
「重傷じゃ」
「手傷を負われましたか?」
「いや、ふさぎ込んでおる。何度か会いに行ったのだが、てんで駄目でな。馬騰にも詫びを入れたところじゃ」
「名誉挽回の機を設けなければなりませぬな」
「うむ、それなのだが……ぜひ両軍師に聞きたい。武運つたなく敗れたわけだが、今後我らはどうすべきじゃ? 孫策は赤壁の戦いを派手に喧伝しておる。我らとしても、次の戦いでまたやつに負けるわけにはいかぬ」
「殿はどのようにお考えで?」
「わしか? うん、わしはいったん孫策と休戦し、韓を攻めようかと考えておる」
「劉備を滅亡させる、と?」
「襄陽の法正が兵と将を送れと催促しておるしな。第一軍の力をもってすれば、もはや劉備などさしたる相手ではない。ここで劉備を滅ぼして、ドカーンと『涼軍ここにあり』と漢全土に宣伝しては、と思うのだが……どうじゃろ?」
覗き込むように自分の案を示す呂砲に対し、冷然と言い放ったのは郭図公則だった。
「下策ですな」
思いっきりコケにされ、呂砲はヘコんだ。
かまわず、郭図公則は言葉を続ける。
「劉備攻撃となれば、現在江陵にいる第一軍を襄陽へ回さねばなりません。これに三月要します。劉備を滅ぼしたとしても、孫策の圧力が減るわけではありませんから、再び第一軍は移動しなければならない。これに再び三月、無駄に費やすことになります。それに……」
郭図公則はチラリと希代之に目をやり、告げる。
「劉備を滅ぼすということは、宛や汝南の曹操軍と対峙することにもつながります。荊州全土の制圧前に、いたずらに敵を増やしてどうされます」
「今回の戦いで、我らは少なからぬ損害を受けました」
希代之が引き継ぐ。
「しかし、それは孫策も同じこと。ここで我らが矛先を北へ転じると、それだけやつらの戦力回復に利することになります。よって、我ら両名は再度の、速やかなる紫桑攻略戦の実施を具申いたします」
「両軍師の存念はわかった」
なんとか立ち直った涼公は答えた。
「しかし、紫桑を落とす策はあるのか?赤壁の鉄壁ぶりは、おぬしらが身に染みて知っているとは思うが……」
ここで郭図公則は、ニッと笑った。
「さすれば、ぜひ採用していただきたい策がございます」
「ほう、それはどのような策じゃ?」
「名付けて、『啄木鳥戦法』」
「キツツキ?……なんとも山本勘助チックな名前だが……なにそれ?」








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