チリのオタク事情
ないないと云われながら、実は日本が世界に輸出できている「文化」は、
俗に云う「ヲタク文化」である。日本から地球上で最も遠い国である
チリでも、しっかりと日本のヲタク文化が輸入され町に氾濫している。
そんな中で、過去数回にわたるチリ出張の帰国直前にサンチャゴ市内で目にした
「ヲタク文化」をここに掲載しよう。
なお、欧米と同じく、この国でも「雑誌」はスタンドで、「書籍」は書店でと
販売経路が分かれているので、この類の雑誌の購入を考えている人は要注意。
本屋に行っても買えません。
最初に発見したのは、これ。サンチャゴの国鉄中央駅の売店で売っていた
セーラームーンのシャボン玉セット。1997年2月に発見した。当時は
未だチリでのテレビ放映開始前だったらしく、タイトルがPlanet Gals=惑星少女と
なっている。米国放映時のタイトルなのだろうか?
1997年6月にサンチャゴ市内で販売されていた「セーラームーン」の
カードアルバムの表紙。拡大するとわかるのだが、ちゃんと「竹内直子・東映」
の版権許可を得ている正式発行物である。サンチャゴ市内の雑誌スタンドで
購入。
チリ国内では「チリヴィジョンCHV」という全国ネットを持つ放送局が絶賛放映中。
SALOという会社が版権を獲得したらしい。
裏表紙を見ると、CHVのロゴがあり、
毎週月曜(Lunes)から金曜(Viernes)まで、16:00-17:30放映とある。
つまり、日本の15倍のスピードで進んでしまうことになる。
もっとも、Los Tigritosという子供向け番組(内容はほとんど日本製アニメらしい)の
中で放送されているので、上記の15話枠全部が「セーラームーン」ではないのかも
知れない。
1997年10月に訪れた際には、
「ぬえぼ・せりえnuevo serle、ぱるて・せぐんでparte segunde」
つまり、「新シリーズ、第2部」として「セーラームーンR」の放映が始まった
ようだ。
今回は、雑誌まで発行されており、空港の国際線出発ロビーの売店ですら
販売していた。
町でも「セーラー戦士」のお面を散見したし、地下鉄の売店では
日本直輸入のステッカー(セーラースターズの日本語ままステッカー)
まで売っていた。
しかも中を開くと読者のページがあり、「こすぷれ」している
女の子が!
でも中身をよく読むと、これはアルゼンチンで発行したものの直輸入らしい。
南米は大半の国が同じスペイン語を話すので、こういった雑誌の直輸入が
やりやすいのだろう。
掲載されている記事を辞書片手になんとか読解したところ、セーラー戦士の
名前は日本語のままであることが判明。チリ人も「月野うさぎ」「火野レイ」
「水野亜美」「木野まこと」「愛野美奈子」「土萌ほたる」「天王寺はるか」
と呼んでいることが判明した(海王と冥王は未登場らしい)。
ちなみに、上のチリ版とは、キャラクターの名前の綴り方が
若干違っている。
セーラー戦士自体はSailor Scoutと英語直訳だが、各キャラクター
の名前を、ここに一覧表として示そう。空欄は判明していない部分。
日本名 | チリ版 | アルゼンチン版 | スペイン語版戦士名
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月野うさぎ | Serena | Serena | Sailor Moon
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火野レイ | Raye | Rei | Sailor Mars
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水野亜美 | Amy | Ami | Sailor Mercury
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木野まこと | | | Sailor Jupiter
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愛野美奈子 | | |
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土萌ほたる | | |
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天王寺はるか | Haruka | Haruka | Sailor Urano
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タキシード仮面 | Tuxedo Mask | Tuxedo Mask
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なお、戦士名はスペイン語とはいえ、対応惑星の英語名である。スペイン語では
各惑星の表現は英語とは少し異なる。
もちろん、スペイン語が母国語のチリ人には、例えば「水野」が「水」を含んでおり
それが「水星」にも含まれる文字であるなどとは分かろう筈もない。しかも「みず」
と「すい」だから、説明には日本語の漢字の音・訓の解説まで必要である。
ましてや「月」と「うさぎ」の関連に至っては想像だにできないだろう。
ちなみに、月の模様を「うさぎの餅つき」と解釈しているのは、日本のオリジナルで
ある(中国や朝鮮でどうかは確認していないが、たしか違ったはず)。
実際、チリ人に「月のうさぎ」の話をしたら、初耳だといっていた。
南半球から見ると、月の模様も上下逆転しているから(本当は、見ている人の
上下が逆転しているのだが)なかなか「うさぎ」とは認識しにくい。
まあ、日本でも「美奈子」が金星を意味する英語「びーなす」とも
読めることに気づいていない人も居そうだから、
スペイン語圏で、この類の「洒落」を理解してもらえなくてもやむをえまい。
とはいうものの、オタクの熱意は想像以上のものだから、
きっと、これらを解説する日本の事情通が執筆したオタク同人誌があるにちがいない。
事実、1997年2月に訪智(チリの漢字略称は智)した際に、サンチャゴ中央駅前で
コピー同人誌を立ち売りしているオタク少女を目撃した。取り上げていたのは
「セイント聖矢」であった。
ほかにも、町中では藤島敬介の「逮捕しちゃうぞ!」が「Esta's Arrestado」という
直訳のタイトルで雑誌販売されていた。
こういった「外国アニメ」の氾濫を見ると、昭和30年代の日本の
TVアニメ事情を思い出してしまうなぁ。当時は日本でも、15分枠の
米国製アニメが幅を利かせていたのだ。「フェリックス・ザ・キャット」
「ポパイ」「マイティーハーキュリー」「スーパースリー」
「ディックトレーシー」「怪獣王ターガン」「宇宙忍者ゴームズ」
等がそうだ。今日とは隔世の感がある。