半田利弘のSF感想:重力の影

 米国シアトルのワシントン大学の実験物理学者、ジョン・クレイマーが、 自ら執筆した小説で、早川文庫に収録されています。 物性実験の途中で並行宇宙との物質交換機を偶然発明 してしまうという、それだけ聞くと「古典的」なSFです。
ただし、現役学者が書いているだけあって、主人公がPDFだったり、 実験室の描写がリアルだったり、理論家と実験家の関係とか なかなか「雰囲気」が出ています。インターネット論文投稿(小説 中では、より昔のビットネットの名前になっていますが)もあります。
 現代物理学的には、超ひも理論とmissing massとかが出てくる ところが新しいといえるかも知れませんね。
 ストーリー展開としては「悪玉教授」「悪いビジネスマン」「ことなかれ 学部長」「美人大学院生」と古典的なパターンどおりの一通りのキャラクターが でてきます。ちょっと米国至上主義的な描写もありますが、これは 仕方がないことでしょう。
 とかくと、古典的で退屈かと思うかも知れませんが、アクションシーンも かなりあり、展開のスピードも速く、愉快に読み終えられます。
 お勧めです。