半田利弘のSF感想:虚空のリング
時間的無限大と同じ作者の、同じ設定宇宙の話です。
今回の舞台は、今から500万年後。スケールの大きさには驚かされます。
さらに驚くのは作者の天文学的知識の豊富さ。ざっとあげると、
太陽ニュートリノ異常、恒星構造と進化、赤色巨星でのSiOメーザー発振、
宇宙の大規摸構造(ボイド)、暗黒物質、フォティーノ(超対称性粒子のひとつ)、
Large scale streaming motionとグレートアトラクター、超対称性とcosmic stringと
domain wall、カー時空ブラックホールと裸の特異点、多重発生宇宙と物理定数、
種族III天体。
よくこれだけ集められたものです。読者のうちどれくらいが、上記関係の専門用語
について来られるのか。米国ではベストセラーだそうですから、市井の人でも
全く判らない訳ではないのでしょうね。天文学的知識の一般社会への浸透に関して
彼我の差を感じちゃいます(米国では深く知りたい人にはとことんまで聞ける
手段が用意されていますからね。日本は一律的な気がします)。
ストーリー全体は、敗北主義的でちょっと後ろ向きなところが感じられますが、
最後が前向きに終わっていることで許してもよいでしょうね。この点でベンフォード
とは読後感が違います。