半田利弘のSF感想:ネメシス

 御大アシモフ最後の長編。 ロボット物でもファウンデーション物でもない長編という売り文句だが、 あるいはファウンデーションにつながるんだろうなぁと思わせる 設定が色々有ります。これは後書きにもありました。
 暗黒星雲に隠れた最近傍恒星という設定は、昔からずいぶん有りましたし、 天体衝突による地球の危機というのも枚挙に暇がありませんが、 そのタイムスケールにリアリティーを着けているところが流石です。 確かに、何千年先というのでは人間行動をおこさないでしょうね。 10年先を見通す行動すらなかなか取れないのですから。 この点ではピットに同情する面もあります。
 超光速飛行の開発物語は私自身筆が立てば書いてみたいなぁという 魅力的なテーマです。不思議なことに、これをメインテーマにしたSFはあまり ないようです。ヤマトではイスカンダルから教えてもらうことになっていますが、 そもそもの開発が語られていませんし。こういう新技術開発関連の物語 ってSFの王道だって云う気がするのですが、なぜなのでしょうね。 でも、その典型として氏の小説が読めたので嬉しいです。
 超光速飛行に伴う因果律の崩壊などについては避けられてしまいました。 これもちだすと超光速飛行はほとんど不可能になってしまいますから。 個人的には自分が生きているうちに超光速飛行ができたらいいのにと思うのですが、 一方で、元来、超光速飛行は不可能なのではないかと最近は思いつつあります。 その場合でも、浦島効果があるので、人間はいずれ恒星間飛行をするでしょうね。 超光速飛行なしでの恒星間文明社会というテーマでSFを誰か書いてくれないで しょうか。
 人類の恒星間への進出というのは、わりと説得力がある設定になっていました。 これには人間が他の大陸へ進出した歴史などを詳細に研究すると 良いのでしょう。結局のところ、経済的理由というのが一番のようですから、 あとは、これにどう味付けするかですね。
 天文学ネタとしては褐色矮星とか惑星知性とかがでてきます。 褐色矮星は80年代に話題になっていましたから、最新の天文学知識を さっそく小説に活かしたことになります。流石ですね。ただ、 現在のように多数の惑星や褐色矮星が検出される時代が20世紀中に来るとは 思わなかったようです。私も予想できなかったので、大したことは言えませんが、 すでに複数のグループで確認されているものが10個近く有るとなると、 これらを舞台にSFを書く人が続々出てくるのではと思います。
 実際、これらの惑星/褐色矮星のほとんどは主星の速度揺らぎの検出で見つ かっていますから、小説では、行ってみるまでわからなかった「メガス」は 比較的簡単に検出できたはずです。したがって、これの存在は地球人にもわかっている とした方がリアルになったでしょう。たとえそれがわかっても、地球型の惑星がある かどうかは現在の技術では検出できませんから(でも23世紀には可能かも)。
 惑星知性はブリンの「ガイア」にも出てきますが、実在するなら 「ネメシス」の方が説得力があります。でも、こうやたらと生物が居る(という 設定)となると宇宙に人間が植民できる惑星などないのではと思わせて しまいます。