半田利弘のSF感想:星海への跳躍

 地球-月系空間が舞台のSFで、この点では機動戦士ガンダムに通じるものが あります。
 近未来に地球上で核戦争が起き、ようやく生産拠点となり始めた、スペースコロニー と月面基地が孤立してしまい、生活必需物資の補給がとだえてしまう。ロケット燃料も 入手困難な、この状況下で、如何にして相互連絡を確保するかがメインテーマです。 従って、ロケットエンジンをメインにしない宇宙飛行方法の提示が楽しみ所の一つ です(まあ、これは「あとがき」にも書いてありますけどね)。
 残存するコロニーを所有している母国は、米・ソ・フィリピンっていうのが ちょっと変わっています。西欧文明以外の要素を入れたいのでフィリピンを加えた のでしょう。ただ、そのために、フィリピンにどうやってコロニーを所有させたかの 設定に若干無理があるようです。
 でも、私にとっては一番の読ませどころはブラームスの描写です。 いけすかないヤツだし、他人からは冷血な独裁者に見えるのに、それぞれの 判断を彼の立場で考えると、必ずしも反論できないのです。1つ1つの 判断に、もし自分がそうだったら同じことをしてしまいそうという説得力が あるのです。特に、自分は公平を旨とし実行しながら、ために直属の部下の不正を 許さないところなど、それ自体悪役っぽくないのです。 そういう意味で、ステレオタイプでない「悪役」が実に上手に描かれています。 逆に言うと、実在の独裁者もこうだったのかも知れない、と思えて、 ちょっと恐ろしくなりました。