半田利弘のSF感想:破局のシンメトリ
P.プロイスの作です。舞台はハワイ・オワフ島。日米共同で建設された
超大型素粒子加速機TERACが主要アイテムです。
現実には、日本が他の国と同様にハワイ島(うちでは、「ハワイ大島」と
呼ぶことにしています。Big island Hawaiiだから)に「すばる望遠鏡」を
建設しているわけですが。
日本人科学者が多数出てきますが、特に石井所長などは
湯川秀樹辺りのイメージなんでしょうね。敵役は結構後の方までわかりにくい
設定になっています。でも、下っ端が失明・失業するという報いを
受けるのに主犯が無罪放免というのは、ちょっと許せないですね。
最初、主人公が誰なのかよくわからなかったのですが、結局、スレーター
だったんですね。若き天才理論素粒子屋で、性格を聞くと「友達には
したくないなぁ」ってやつですが。自分が天才だと知っていて、孤独を好み、
かつ、ええかっこしいなので、私は好感が持てませんでした。
相手役の女性もちょっと不道徳過ぎるしね。
SFとしてのネタは「素粒子爆弾」ってところでしょうか。そういうものが
できるとしたらどうなるかというのはなかなか面白いです。名称だけなら
松本零士が「重核子爆弾」ってのを「ヤマト」シリーズで出していましたが。
実在の大型加速機を取材したそうで、そこの描写は流石です。といっても
私自身はトリスタン完成以前のつくばの高エネルギー研のリングしか実物は
見たことがないのですが。それにハワイの描写ですね。きっと取材に行ったん
だろうなぁ。結構、「サイエンス・ウィーク」の取材風景なんか、自分の
取材をモデルにしているのかも知れませんね。
(読了)